自ら「炎上」へと突き進む?舛添都知事の「理論的な釈明」


藤本貴之[東洋大学 准教授・博士(学術)/メディア学者]

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政治資金の私的流用が疑われている舛添要一東京都知事による5月13日の記者会見。そこで展開された説明と釈明の基本的なスタンスをまとめると以下のようになる。

  • 「法律上問題はないが誤解を与えたことは反省」
  • 「会計責任者に任せており、チェックが甘かった」
  • 「一部、経理担当者が間違えて私的な支出を混ぜてしまった」

舛添氏も会見にあたり、法的な問題の有無に関しては調べたり、アドバイスを受けた上での発言であろうから、おそらく法的な議論への対応は準備万端なのだろう。

しかし、舛添氏が本当に対処・対応せねばならないポイントは、法律的な是非論や違法・合法論ではないことに舛添氏はどこまで気がついているのだろうか。法的に問題があろうがなかろうが、それとは全く別次元で「炎上」する危険性があるからだ。

「法的に問題がない」という論拠から、自らの正当性を主張したことで、究極的な「炎上」を起こし、凄惨な結末を迎えた「五輪エンブレム騒動」はあまりにも記憶に新しい。類似が指摘されたベルギー・リエージュ劇場のロゴに対して、「既に商標を取得している」「法的には問題ない」という論拠から、自らの正当性に自信を見せたことで自滅していった、佐野研二郎氏と東京五輪組織委員会。

「法的に問題がない」といった論拠が、インターネット時代の民意や世論あるいは社会的な信頼性という観点からは、いかに脆弱であるのかをよく示している事例だ。

目先の嘘やごまかしが、取り返しのつかない究極的な批判や非難を生み、SNSを中心に急激に拡散・共有され、ネット世論を形成する。そしてそれがネットの世界を飛び出して、実社会における生活や人間関係にも大きな影響を及ぼしてしまう、いわゆる「炎上」。

そしてその「炎上」とは、理論的な説明によって正当性を主張しようとすればするだけ、さらなる反発や反証を生み、追い込みが加速するという基本的なメカニズムをもっている。

そういった観点から今回の舛添氏の会見を見ると、「自ら進んで炎上させたいのか?」と思わせるほどに、典型的な炎上パターンとなっている。(「炎上」のメカニズムなどの詳細は拙著「だからデザイナーは炎上する」(中公新書ラクレ)を参照されたい)

法的に問題がない、とか、専門家によれば、といったことを正当性の背景にすることで、当事者はひとまず「理論的な説明」はできている(=問題回避の成功)と錯覚する。これがむしろ炎上を加速させ、事態をより深刻な方向へと持っていってしまうにもかかわらず、だ。

週刊誌で報道され、舛添氏が会見で釈明・説明した事項について、具体的に見てみよう。

<1>家族旅行と疑われるホテル費用の支払い

舛添氏は家族と利用したホテルの宿泊費を会議費として2回支払いをしている。これに関しては「家族も宿泊したが、事務所関係者とも会議をした」という説明をした。そして、本当に会議をしたとする2回のストーリーを次のように示している。

  • 平成25年1月3日:直前12月に行われた総選挙結果の総括。7月に予定されている参議院選挙への対応に関する会議。
  • 平成26年1月2日:出馬表明をした東京都知事選への対応に向けた会議。

もちろん、なぜ家族旅行と会議をぶつけているのか、という当然の疑問に対する回答も用意されていた。「時間がなかった。マスコミに追われていた(ので事務所や自宅での会議が難しかった)」というロジックだ。

信用できるかどうかはさておき、話としてはそれなりに理論的に整えられている。

<2>私的利用と思われる飲食店での支払い

自宅近くにあるイタリア料理店での飲食代が、プライベートな会食ではないのか、という指摘については、「自宅の近くではあるが、政治団体の事務所の近くでもある」という地理的な理由を示した。

そして、「家族も利用するが、事務所関係者も会合で利用する」とし、報道された飲食に関しては「事務所関係者との会合」という説明となった。

【参考】舛添都知事のお金にまつわる「セコい話」に唖然

<3>湯河原の回転すし店での支払い

舛添氏が役員をつとめる会社施設(湯河原)の近所にある回転すし店の会計を政治資金から支払っていた件は、「私的な利用もするが、施設に来た事務所関係者との打ち合わせなどにも利用する」という説明だ。

一般論はさておき、「回転すしを食べながら打ち合わせをしない」とは言いきれないので、これもある意味、説明ができてしまっている。

<4>天ぷら屋での支払い

この件は、他とは異なり「個人的な飲食代が誤って計上されてしまった」として、3件合計5万2550円を収支報告書の訂正・削除をした上で返金するとした。

人間は誰しも間違いはする。膨大な伝票を整理しなければならない政治家であり、著名な政治評論家である舛添氏の経理であれば、なおさらだ。もちろん、間違えを発見すれば、速やかに対処・対応する・・・と、言っているわけだ。

<5>アウトレットで購入した高級ブランドのポーチ

千葉県内のアウトレットで3万円強もする高級ブランドのポーチを事務所用品として購入している件については「小さな事務用品を入れるため」とした。しかも、日常の政治活動で携行している鞄の中に入れ、ちゃんと利用している、と。

そのようなポーチが本当に必要であったかどうかは、その人の仕事のスタイルによって異なるし、いくらでも説明はできる。必要と言えば、必要なのだろう。高級ブランドである理由も、「安価なものは壊れやすく、長期的に見れば、高級ブランド品の方が安上がり」などと言えるかもしれない。

【参考】都知事の高額出張費は「わかりやすいところを叩く」ネット世論の格好のターゲット[茂木健一郎]

<6>美術用品の購入の支払い

一般的には説明が困難と思われる、美術用品店での消耗品としての計178万円の支出。これについても理論的な説明を完成させている点はさすがだ。舛添氏の政治活動には、海外との交流の仕事が多く、海外交流のためのツールとして書や浮世絵などの版画などを使うという論拠だ。美術用品はそれらの「額装」などのために購入し、活用しているというのだ。

それ以外にも700万円ほどの美術品購入が指摘されているが、この説明も「美術品と言えば美術品ですが、私にとっては研究資料」であるという。東大助教授・学者出身の舛添氏ならではのロジックだろう。

<7>舛添氏自著の買い上げ

自著の購入費としてを支出した10万3680円。その自著は舛添氏の都政に関する基本的な考えを記したものであり、都政を理解してもらう資料として配布するために購入とした、との説明だ。これだけはなんとなく妥当性がありそうだが、よく考えると数が中途半端なのである。

買い上げた自著は「東京を変える、日本が変わる」(実業之日本社)であると思われるが、その定価は1200円(税込み1296円)。つまり80冊分ということになる。80冊という数は、政治活動のツールとして配布するにしては数が少ない。法的には問題はないのかもしれないが、個人的な購入(私的配布や出版社への売り上げ貢献、ランキングを上げるため)が主たる目的である可能性は高まる。

・・・会見で説明・釈明された内容を整理すると、以上のようになる。

基本的には、自身の潔白と流用の事実がないことを、本人なりに矛盾がないように、説明可能な理論を立てて釈明し、理解を求めていることがわかる。さらに言えば、それなりに丁寧(巧妙)なテクニックも見え隠れする。

例えば、指摘された幾つかに関して、「法的には問題はないはずだが、政治活動での利用が確認できなかったので」という理由から、収支報告書の訂正・削除と返金を申し出ている点だ。舛添氏としては、あくまで潔白だが、それでも「確認できない」ものであれば潔く返金する、という姿勢を示しているつもりなのだろう。

これを見るだけでも、非常によく練られた会見であり、法的な責任や追求は回避できることを確信した上での会見内容であるように思う。

一方で、このような理論的な説明や釈明をいくらされたところで、記者会見を見た多くの人が、「おいおい、なんだその理由!」とツッコミを入れてしまったはずだ。しかし、理論的には「それなりに筋のとおった矛盾のない説明」になっているという違和感。

この「違和感」こそが、民意からの乖離を表している。その乖離が法的な是非を超えた非難や批判を生み、社会的な追求(あるいは全否定)を誘引する「炎上」の火種となる。

会見を見た多くの人が感じた「ツッコミたくなる違和感」は、いわば世論だ。民意から乖離した「理論的な釈明」はネット民たちの戦意を高揚させるには十分なネタだ。

今後、舛添氏に対する様々な情報が暴かれ、揚げ足取りやこじ付け、言いがかりを含めた様々なネガティブ情報が発掘される可能性は高い。そうなれば、政治家以前の過去、性癖やプライベートな人間関係や知られたくない過去にまでその発掘の矛先は向かうだろう。

「理論的な釈明」によって、自己の正当性を証明しようとしたが故に、舛添氏は「本当の炎上」へと突き進んでいるように思えてならない。

 

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藤本貴之(ふじもと・たかゆき) 東洋大学総合情報学部・准教授(情報デザイン論・メディア構造論)/北陸先端科学技術大学院大学・教育連携客員准教授/藤本情報デザイン事務所・執行役員/JAGDA正会員/最先端のメディア研究・メディア技術の知見から、アカデミズムの枠を超え、企業や自治体などを対象としたメディア設計や情報発信戦略など、数々の実践的なプロジェクトを手がけている。主な著書に『情報デザインの想像力』『脳にアイデアを思いつかせる技術(講談社)』『映像メディアのプロになる!(河出書房新社)』など、多数。