「障害プラスα~自閉症スペクトラムと少年事件の間に~」は自閉症への間違ったイメージを広げた?

テレビ

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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5月15(日)放送の日本テレビ、NNNドキュメント「障害プラスα~自閉症スペクトラムと少年事件との間に~」を見た。筆者もこれまで放送作家としてドキュメンタリー番組の構成にも携わった。一方で、日本自閉症協会の会員として自閉症にも専門的な関心を持って学んできたつもりだ。
よって、自閉症を題材としたドキュメンタリーとなれば、筆者にとってはその番組への関心は倍化してしまうし、真剣に見入ってしまう。本稿では、上記のような立ち位置から、この番組についての感想を記したい。
まず感じたことは、この番組の取材・撮影が非常に真摯な態度で行われていた、ということだ。その上で気になったことがある。それは、素材の編集をはじめた、ある段階において、「結論ありき」で、番組が構成されていってしまったのではないか、ということだ。
それはタイトルにも現れているように思う。そう、「障害プラスα」の「プラスα」の部分のことだ。
ちなみに、「プラスα」の「α」を明かしてしまえば、「α」部分とは虐待のことである。つまり、「障害」に「虐待」がプラスされると何か重大なことが起こることをタイトルが暗示しているわけだ。そして「重大なこと」とは番組では「犯罪行為」であると言う。
ここで取り上げられている障害は自閉症スペクトラムであるから、自閉症スペクトラム者が虐待されて育つと犯罪行為に及ぶことが多くなる・・・ということをタイトルは言っているのである。しかし、これは明らかな間違いである。
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どう間違いかというと、虐待によって犯罪行為に手を染めることが多くなるのは定型発達者(普通の人)でも同じだからである。よって、自閉症スペクトラム者だけを虐待と結びつけて取り上げるのは明らかな間違いなのだ。
番組内では「自閉症スペクトラムそのものが犯罪と結びつくことはない」ということが免罪符のように何度か繰り返されるが、その一方で「自閉症スペクトラム者が虐待されて育つと犯罪行為に及ぶ」というメッセージも繰り返して提示される。
この場合、ネガティブバイアスが働くので見た人に残る印象は「自閉症スペクトラム者が虐待されて育つと犯罪行為に及ぶ」になってしまうはずだ。
ある医師は筆者と同じ意見を次のように表現している。

「この番組の中心テーマは自閉症がある人の更生プログラムなのに、テレビを見る一般の人には、自閉症の人は変な犯罪、トンデモ犯罪を起こすという印象が残ってしまうことだ。自閉症だけだと犯罪を起こさないが虐待を受けると犯罪を起こすという論理は、『やっぱり自閉症は犯罪につながる』となる。虐待は自閉症者だけではなく、いかに普通の人にもダメージを与えるのか、だったら良かったのにと思う」

番組制作者は『読後感』にも責任を持つことが必要だと、筆者は考える。
 
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