<「憲法改正」のサブリミナル?>フジテレビのドラマ「モンタージュ 三億円事件奇譚」の気味悪さ


両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]

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6月25日(土)・27日(日)の2夜連続で放送されたフジテレビのドラマ『モンタージュ 三億円事件奇譚』。この番組を視ているうちにいささか違和感が生じてきて、原作コミックを取り寄せてみました。(急なことで全巻は揃わず、読めていないところも多少あることをお断りしておきます。)

番組の公式サイトには次のようにあります。

「超大型スペシャルドラマ『モンタージュ 三億円事件奇譚』は、2010年から2015年まで、「ヤングマガジン」(講談社)で連載された大人気マンガ『モンタージュ 三億円事件奇譚』(渡辺潤・コミックス全19巻)の映像化作品。(中略)激しい映像化権の争奪戦が繰り広げられた末、フジテレビがその権利を獲得し、今回のドラマ化に至った。」(フジテレビ公式番組サイトから引用)

この作品は3億円事件の黒幕と実行犯、そしてその子供たちにまつわるストーリーです。この作品で描かれる3億円強奪事件の動機は、警察官である黒幕が当時盛んだった学生運動取り締まりのローラー作戦を実行する理由づくりのためにこの事件を企図したと設定されています。

そして、黒幕と同郷の実行犯は恋人をデモ隊と機動隊の衝突による事故で失い、その悲しみから黒幕に手を貸すことになるというのが物語の発端です。

筆者がこのテレビドラマを視ていて最初にちょっとした違和感のあった、実行犯が恋人和子の死の原因を知る場面を原作と比較してみます。

【参考】<フジテレビ凋落の理由>テレビを見なくなった若者に向けた番組ばかりを作る愚

<テレビドラマ>

恋人和子は学生運動が激しい時代の中で政治的であることを望まない女子大学生として描かれています。そしてその死の状況は警察官である黒幕によって語られます。

『デモに巻き込まれたのは確かだが彼女は機動隊にやられたんじゃない。学生だよ。学生が警察の警備車両を奪って暴走させたんだ。(中略)学生運動に殺されたんだ。このままじゃこの国はダメになる。俺とこの国を変えないか。俺といっしょに和ちゃんの敵を取ろう』

ドラマを視ている時点で筆者は原作コミックを読んでいませんが、この手のドラマでこれほどはっきりと反学生運動をセリフとして言わせるのは珍しいなとわずかに気になりました。

後に原作を読んでみると、おそらくは原作者の意図と思いますが、テレビドラマとはかなりニュアンスが違って政治性はかなり弱く描かれています。

<原作コミック>

恋人和子は原作では大学生ではなく「駅前の定食屋で働く3つ年上のボインちゃん」(3巻#27)です。また、原作の事故死のシーンは学生と機動隊とがぶつかり合う描写があるだけで、どちらに非があって和子が巻き込まれたのかは描かれていません。(19巻#183)

ですから実行犯は、

『別にボクは学生や社会に意見を唱えるものを否定するつもりなんかない。でも・・過激派のような連中の行動は納得がいかないよ』(19巻#184)

という気持を吐露します。そして誰もが平穏に暮らせる世の中が来るようにと、黒幕に手を貸すことになります。原作コミック作者の意図とテレビドラマ制作者の意図にはニュアンスの違いがあるように思います。

さらに、このドラマを視つづけているうちに強い違和感をおぼえたのが『憲法改正』という言葉が発せられたシーンでした。

3億円事件から数十年後、与党・民和党の幹事長になった黒幕が『まだ憲法改正も出来ていないんだぞ』と叫ぶシーンが出て来たのです。突然に『憲法改正』というサスペンスドラマにはあまり馴染まないセリフが飛び出すとびっくりします。しかもこのセリフは一度ならず出て来るのです。

【参考】<『フジテレビはなぜ凋落したのか』著者が指摘>テレビがスクープをとれない原因は蔓延する「横並びで安心する空気」

この事に気づいてみるとこのドラマでは『憲法改正』が黒幕のセリフだけではなく、それとなくながら、かなり頻繁に出てくることにも気づかされます。

黒幕がテレビのインタビュー番組に出ているシーンや記者会見のシーンが何度もあるのですが、この中では劇中番組の司会者が「憲法改正については・・・」などと言ったりします。またそうした番組や記者会見などの劇中番組のテレビ画面には必ずテロップで『憲法改正』という文字が入っています。

視聴者のほとんどは気にも留めなかったかもしれませんが、気づいて視ればこのドラマ制作者の『憲法改正』に対するかなり執拗なこだわりにより、このドラマの視聴者は知らず知らずのうちに『憲法改正』という音や文字を何度も聞いたり見たりしているのです。

そしてその極めつけはエンディングです。追いつめられた黒幕は手下に『殺せ!』と命じるのですが手下は命令に従いません。すると黒幕は叫びます。

『憲法改正も遅れるんだぞ。この国を守るためだ!』

そして万事休した黒幕は、『外からの都合で変えられることのない強い国にしたい』と思って生きてきたと言いつつ自ら死のうとします。

その黒幕に向かって、追いつめた者たちは『死ぬな!語れよ真実を。』と叫び、黒幕が数々の罪を己のためにやったのではないと認めます。あたかも、『憲法改正』や『強い国を作る』ために罪を犯しながら生きてきた黒幕の考え方を、追いつめた者たちが肯定しているかのように受け取れるシーンです。

【参考】<視聴率より平均年齢>フジテレビはなぜ「49歳以下が見ている番組」を表彰するのか?

ではこのラストシーン、原作コミックではどうでしょうか。あくまで筆者が読んだ範囲ではありますが、コミックにこのようなシーンはありません。テレビドラマとはまったく異なるエンディングです。

そして読んだ範囲では原作コミックに『憲法改正』という四文字を見つけることもできませんでした。

やはりテレビドラマ制作者はかなり意図的に『憲法改正』を入れたと考えるのが自然でしょう。筆者にはその姿勢が『憲法改正』に肯定的と思えましたが、ネット上では逆に、

  • 憲法改正なんて言ってる議員にろくな奴いないってオチか
  • 憲法改正をしたい奴は人殺しを平気でする犯罪者
  • もうすぐ選挙です。あなたは犯罪者に投票しますか?

などという声もあって、もしかしたら逆効果だったのかもしれません。

「フジテレビが総力を挙げ、テレビドラマ史上空前のスケールで制作・放送する、本格社会派エンターテインメント『モンタージュ 三億円事件奇譚』に乞うご期待!」(フジテレビ公式番組サイトから引用)

こう謳うほどの大型作品であり、しかも参議院選の真っ最中にOAするドラマに『憲法改正』を執拗に放り込み。ちょっとしたサブリミナルと受け取られかねない手法まで使うという、「フジテレビの総力を挙げた」ドラマづくりは、筆者にはかなり気持が悪いやり方に思えたのですが。

 

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両角敏明

両角敏明(もろずみ・としあき)テレビディレクター、プロデューサー。 バラエティ、報道、情報、すべての番組を手がけてきた。