ボブ・ディランのノーベル文学賞受賞に見る「ビジネスモデルとしてのノーベル賞」の凄さ


茂木健一郎[脳科学者]

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賞の生命は、その「選考」過程にある。世間の評価を追認したり、既存の価値観に従うだけだったり、あるは業界内の「年功序列」の積み上げだったりすれば、そのような賞は一部の人たちに便利に使われるだけで、実質的な意味を失っていく。

ノーベル賞が「世界で最も成功したビジネスモデルの一つ」と言われるのは、その選考が優れていたからである。たとえば、田中耕一さん(2002年ノーベル化学賞)のように、同じ業界の中でも十分に知られていないような業績を掘り起こして受賞者に選ぶことで、「さすがノーベル賞」とその価値を高めてきた。

今回のノーベル文学賞がボブ・ディランさんに決まったことは、「選考」の実質的な意味ということで、賞の価値を高めるだろう。選考委員会は、ボブ・ディランさんの「詩人」としてのすぐれた資質、業績を挙げたが、そのような「本質」を見据える視点、見識がまず素晴らしい。

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また、ポップ・ミュージックという、従来、小説や詩などの文学に比べればより大衆的だとみなされていた分野におけるボブ・ディランさんの業績に対して、価値観やヒエラルキーの枠を超えて、評価した点において、画期的な選考だと私は考える。

もちろん、革新的な選考には批判が伴う。英語のメディアを見ていると、ボブ・ディランさんの受賞に対して疑問を呈したり、批判する識者もいる。しかし、英国の美術賞、ターナー賞を見てもわかるように、批判されないような選考は、本来、革新性に欠けるのである。

世の中にはたくさんの賞があるが、ノーベル賞に学ぶべきは、選考にかけるエネルギー、手間、そしてそこに込められた実質を見据える視点であろう。ノーベル賞という既成の「権威」を何も考えずにありがたがる態度では、なぜノーベル賞というビジネスモデルが成功したのか、その本質に到達できない。

(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)

 

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茂木健一郎

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)脳科学者。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員。1962年10月20日、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程終了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を出て現在に至る。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。