周星馳監督「人魚姫」は笑えない感動的な失敗作だ


高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

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映画「少林サッカー(2001)」、「カンフーハッスル(2004)」、「西遊記 はじまりのはじまり(2013)」などで知られる周星馳(チャウ・シンチー)監督最新作「人魚姫」を新宿シネマートで見た。

館内は満員。直木賞候補に何度も挙げられた小説家・馳星周(はせ・せいしゅう)があまりのおもしろさに、そのペンネームを頂いた周星馳の作品である。

それが、シネコンではなく東京地区ではここだけの上映である。さみしい話だ。周星馳はもちろん名前だけの監督ではない。そのチープだが破天荒なギャグの世界にはハズレがないと筆者も思っている。

受付でパンフレットを買おうとして、まず面食らった。

「パンフレットは製作しておりません」

とのつれない返答。なんという扱いか。売れないと思っているのか。何となく嫌な予感がする。

さて、映画だが、絶滅の危機に瀕した人魚族と、環境破壊を続けリゾート開発で巨額の儲けを狙う人間たちの戦いである。もちろんこの戦いがテーマではなく、この設定の元にギャグを展開するのが目的なのだと周星馳ファンの筆者は思う。

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ところが、青年実業家リウ(鄧超)は、未開発の海岸、青羅湾一帯を非常識なほどの高値で買いとり、開発を計画した。イルカの棲む湾とあって、開発は難航が予想されたが、リウは強力なソナーを発射することでイルカを湾から追いはらってしまう。

青羅湾には、また、陸に上がった人類に隠れて、水棲生物として進化した人魚たちが棲んでいた。青羅湾の危機。実業家リウの計画を阻止すべく人魚族は、刺客として、美少女人魚シャンシャン(林允)を陸におくった。

シャンシャン役に抜擢された新人・林允は、周星馳の映画の文法通り「ブサかわ」である。もちろん魅力的に変身する。ここまで揃えばあとはギャグを楽しみにすれば良い。

ところが、この周星馳映画は、ちっとも訴えてこない。ギャグが面白くないのである。練られていないのである。乾いて笑うことが出来ないのだ。

その大きな理由の一つは「人間の環境破壊を阻止する人魚族」などとという、ありがちで、地球規模の問題で、しかも誰も異を唱えることが出来ないような設定にあると筆者は思う。

「少林サッカー」は、脚の怪我が原因で引退した元サッカー選手が、偶然見かけた少林拳の達人シンとその兄弟弟子達によるサッカーチームを結成し、共に全国制覇を目指すという話で、社会的なテーマなど置かない。そこが良かったのだ。

ところが「人魚姫」は環境破壊という社会的テーマを置いてしまったために跳ぶことが出来なかったのだ。

エンディングでは館内にすすり泣きが聞こえる。感動を生んでしまったのである。感動を生むことは悪いとは言わないが、筆者にとっての周星馳映画は感動を笑いが上回るものなのである。

 

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