<医師が見る「コウノドリ」>現代医学の限界と医療現場をリアルに描く


池内克彦[医師/サンタキッズ&ファミリークリニック院長]

***

この秋は、「ドクターX~外科医・大門美知子~」(テレビ朝日)、「コウノドリ」(TBS)など、医療ドラマが豊作のシーズンとなりました。「ドクターX」は平均視聴率が21.2%。「コウノドリ」は第4話で13.6%を記録、いずれも高視聴率をあげています。

当然かもしれませんが、誰もが「いのち」「健康」に強い関心をもっていることを改めて感じさせられます。特に、生命誕生の最前線である周産期医療を描いた「コウノドリ」は、周産期医療に携わっていた医師の目から見ても、驚くほどリアル感のある現場が描きだされていました。

実際の医療現場を忠実に再現したリアルさと共に、医療側の不完全な部分を包み隠さずさらけ出したドラマ作りと、本当の医療の姿を知りたいという視聴者の思いがあったように思います。

ドラマにリアル感をもたせていた特筆すべき点は、セリフです。言葉ひとつひとつがとても重く、現場での様々な叫び声と重なり、医療の現状をあぶりだしていました。

医療現場は究極の選択に迫られる場面の連続です。「コウノドリ」でも、出産方法、出産時期について、毎回ご家族は様々な選択に迫られます。

例えば、ドラマの中でも、帝王切開にするか、無痛分娩にするか、いつ出産するかなど、様々な選択を迫られ、苦しんで決断した後も、それでよかったのか悩み続けてしまうことがありました。

その時、コウノドリ先生は、悩んでいるご家族に次のように語りかけます。

「どう産んだかではなく、どんな思いで産んだか?が(その後の人生とって)大切ですよ」

「(お母さんは)産むのが目標でなく、赤ちゃんを育てることが目標ですよ。(お母さんが)産んだ赤ちゃんをしっかり育てられるように元気にしたいと思っています。」

出産はゴールではありません。そこから赤ちゃんの人生、お母さん、お父さんとの3人の人生が始まるのです。出産に臨んだ時の気持ちが、その後のご家族の絆を強くするのです。大切な人生について決断するのですから、悩むことは決して悪いことではありません。そんな大事なことを伝えてくれるドラマだからこそ、リアルに描くことができたのでしょう。

これは出産以外の病気でも同じです。病気が治った後も、患者さんの人生は続きます。病気の後の人生が、病気になる前よりもいい人生になって欲しいから、医療の現場は、患者さん自身も、ご家族も、医師も、医療者も葛藤するのです。

医療とはすぐ答えは見つからないことばかりです。だから最善の治療を求めて、ぶつかりあうこともあります。「コウノドリ」でも、子宮頸がんの妊婦さんの出産を巡って、こんなシーンがありました。

コウノドリ先生は、お母さんのがんの治療をするために、28週での出産を主張。対して四宮先生は赤ちゃんのリスクも考え32週での出産を主張。母と子、2つの「いのち」を守るための論戦が続きました。医療者だけでなく、ご夫婦も、ご家族も正解の見えない問題に悩んでいました。

その時、新生児科医の今橋先生は、「誰が言っていることも間違っていません。そして新生児科医は下された決断に対して、全力で尽くします」と語ります。

医師は、患者さんが下した結論を尊重し、治療後が今よりもしあわせになることを願って、全身全霊を傾け、患者さんを支えるのです。医療のゴールは、病気を治すことではなく、治療後の人生がよりしあわせになることを目指さないとならないのです。

また、ドラマ「コウノドリ」で描かれたような葛藤の状況は、筆者が医師となった頃(あるいはそれ以前)から現在まで、何もかわっていません。それだけ難しいテーマです。今のままでは、ずっと葛藤は続いてしまう。ここに、現代医療の限界があると感じています。

この苦しみを越えるためには、医療も変わる時期が来ているのかもしれません。現代医療の中心は西洋医学です。西洋医学は科学の発展とともに、再生医療、遺伝子治療、陽子線治療、免疫療法など、目覚ましい技術的進歩を遂げました。しかし、病気はなくなっていません。

また最近では、病気の質も変化しつつあります。眠れない、だるい、食欲がでない、朝起きられない、落ち着かない、学校や会社にいけない、イライラする、微熱が続く・・・。こんな不調を感じ、診察、検査をしても異常が見つからず、治療ができない「未病(=病気として診断されないが不調がある状態)」で悩む方も増えています。

未病は現代の医療、西洋医学だけでは対応することが難しく、西洋医学の限界も露わになりつつあります。最新の技術を駆使しても、未病の医療は、満足な成果が出ていないのが現状です。

コウノドリ先生が「病気の重さと、患者さんの心の重さは一致しないのだよ」と後輩の医師に語っていますが、これには現役医師で筆者も思わず納得させられてしまいました。原因がわからない症状で悩んでいる方も、がんのように原因のはっきりした病気の方と同じように苦しんでいます。どんな病気、どんな些細な症状でも、苦しみは同じなのです。

筆者も医師として「誰もがしあわせになれる医療」について考え、取り組んできました。もちろん、多くの医師たちが同じような思いを持って医療活動をしていると信じています。そして、ドラマ「コウノドリ」は医療現場をリアルに描き出すことで、そんな「誰もがしあわせになれる医療」を、多くの人に考えさせる作品になっていたように思います。

ドラマ「コウノドリ」は西洋医学の限界を含めた現代医療の問題を突きつけています。そういったリアルなドラマが高い視聴率を上げている現状とは、「誰もがしあわせになれる医療」への関心が高まっている証拠でもあるように思います。

 

【あわせて読みたい】

The following two tabs change content below.
池内克彦(いけうち・かつひこ)医師。山口県防府市「サンタキッズ&ファミリークリニック 」院長。昭和40年4月27日、北九州生まれ。平成5年4月、山口大学医学部卒業し、九州大学医学部付属病院、福岡市立こども病院、国立別府病院、国立小倉病院、北九州市立医療センターなどに勤務。平成14年4月、山口県防府市で和田内科・池内こどもクリニックを開業。平成23年2月、防府市新田にサンタキッズ&ファミリークリニックとして移転開業。