<大森カンパニー舞台「更地14」>若者たちはコントの舞台をどう観るか?

映画・舞台・音楽

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

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下北沢のザ・スズナリなどという小屋に芝居を、それも笑いの芝居を見に行くと大抵は5、6人の知っている業界人に会うものだ。しかし、今回の大森カンパニー「更地14」で知っていた顔はたったひとり。もちろん、客席は満員である。これは招待ではなく本当に一般のお客さんにチケットが売れている証拠である。

今回筆者が見た舞台は大森ヒロシ率いる大森カンパニーが主催「更地14」。今、笑いを主戦場にしている舞台の中で最も笑えるのではないのかと筆者は思う。見ていないものの中には、これ以上に笑えるものがあるかも知れないが、少なくとも日々、それなりの数の舞台を見ている筆者だが、これ以上に笑える舞台は記憶にない。

【参考】<大森カンパニー「芝居コント」が面白い>芝居が出来ないものはコントをやるなかれ

さて今回は、普段は舞台でコントを観るような経験をしたことがない息子を同行させ、「どのコントがおもしろかったか?」と感想を聞いてみた。すると次のような回答であった。

「一番おもしろく思えたのは避難訓練のコントと代官に直訴しようとする農民2人のコント。共通点は大森氏がツッコミ役で、ボケ役がアドリブで暴れ回る度合いが高かったということ」

上記の感想を補足するために、それぞれのコントを説明する。

[避難訓練のコント]訓練が緊張しすぎで上手く出来ない女子高生(田中真弓)に日舞の心得のあるコーチ(三宅祐輔)が付き、それを学校教師(大森ヒロシ)が補佐する、というコント。

[代官に直訴のコント]2人の農民(山口良一・大森ヒロシ)が代官に直訴に行こうと誓い合うが、片方の農民は行きたくないので誤魔化す、というコント。

なるほど、これはいわゆる設定一発、それだけで転がすコントである。これを若手芸人で上手に演じられる人は今はいない。明石家さんまは舞台『今回はコントだけ』で、この手の設定コントをやっている。しかし、この舞台はしばらく開催されていない。

「コント55号のコントはこうだった」と言えば、年配の人は分かりやすいかも知れない。息子は明石家さんまの舞台は数回見ているが、世代的にもちろんコント55号は知らない。そんな息子の意見こうだ。

「他のコントは固めた台本を忠実に再現するものが中心だったが、この2つに勝てていなかったように思う。やっぱり、アドリブでボケを繰り出していくコントの方が僕(=若者)にはおもしろい。客の意表を突けるし、ウケたくだりはしつこく繰り返すことができるし、トチリも笑いに変えられるし、いったん起きた笑いを重層的に盛り上げていくことができる。個人的には、90分ずっと避難訓練のコントでもいいかな・・・と思った」

この設定一発コントの利点は、上手く演ずれば(息もつかせず演ずればと、言い換えても良いかも知れない)前の笑いが終わらないうちにつぎの笑いの波が来て笑いが重なる。まさに重層的に盛り上がる、客席が文字通り笑いの渦になる。笑いの質量の高いコントになる可能性がある。

一方、良くない点は、「しつこい」「いじめっぽい」などの感想を持たれることだろう。今回、大森カンパニーは長さの点でその不具合を巧妙に避けていたと筆者は思う。

ただ、息子(が若者の代表ではないのだが)の意見はこうだ。

「『アドリブ強めのコントの方がおもしろい』というのは、別に個人の好みではなくて、多数派の好みだと思う。客席から生まれている笑いは、明らかに避難訓練のコントの時が一番多かった。演者さんが台本に戻そうとするのがわかり、むしろそのあたりが惜しかったぐらい」

ところで、大森カンパニーは来年2019年には下北沢「劇場双六」の上がりにコマを進める。つまり、本多劇場での公演である。実にめでたい限りだが、この劇場双六、上がれるかどうかは、客の入りにかかっている。期待したい。

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