ゴーン会長逮捕が高額報酬見直し契機になる -植草一秀


植草一秀[経済評論家]

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日産自動車のカルロス・ゴーン会長が金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)容疑で逮捕された。現時点で認否は明らかにされていない。ゴーン会長の役員報酬は国内の上場企業の中でもトップクラスである。朝日新聞報道によると、

「東京商工リサーチのまとめでは、役員報酬の開示制度が始まった2009年度に日産から受け取った報酬は8億9100万円で、上場企業でトップ。その後も毎年10億円前後の報酬を受け取り、16年度まで8年連続でトップ10に名を連ねた。」

ということである。今回の逮捕容疑は、この間の5年間に届け出た報酬額が虚偽で、実際はその倍近い報酬を日産から受け取っていたというものである。格差問題が深刻になるなかで、企業経営者の報酬のあり方を考え直す必要がある。

ゴーン氏は2018年の株主総会で、日産の報酬水準について「優秀な人材をつなぎとめるため、競争力のある報酬が求められている」と強調した。世界的な自動車会社のCEOの報酬が20億円近くにのぼることなどを挙げて理解を求めていた。

問題は現在経済のなかで、企業トップが高額報酬を受け取ることの是非である。企業経営者の役割は大きい。巨額の赤字を計上している企業が、経営者の交代によって巨額の黒字に転換することはある。企業経営者の手腕によって、企業の業績は激変し得る。企業経営者が一定の成功報酬を得ることは合理的である。

しかし、企業の業績が大幅赤字に転落したときに、経営者が赤字を自己資金で補填することはない。赤字に転落しても高額報酬を獲得し続けることがほとんどだ。赤字に転落しても赤字分の補填を求められない経営者が、黒字が拡大したときだけ、巨額の成功報酬を得ることは正当でない。

巨大な利益を上げることが功績だとされるが、巨大な利益を個人の力で獲得しているわけではない。企業が利用する「総資本」、あるいは「株主資本」を事業に投下して利益を上げているだけなのだ。

100万円の資金を投下して得られる利益と1000億円の資金を投下して得られる利益を同列に比較することはできない。比較するとすれば、投下資金に対する利益の比率=総資本利益率・自己資本利益率を比較するべきである。

2017年度は、ゴーン氏が日産の社長兼最高経営責任者(CEO)を退いたため、日産からの報酬は7億円超に減少したが、新たに三菱自動車の役員報酬が加わって合計で10億円近くを受け取っている。1年で総額20億円前後を稼いでいる計算だ。

過去20年間、日本においても企業経営者に巨額報酬を分配する事例が増えている。欧米の事例に倣うというのが主たる根拠である。しかし、欧米が先進的で優れているということではない。末端の労働者に対してはフルタイムで働いても年収が200万円に届かない報酬体系を保持しながら、企業経営者が年収10億円を得ることを正当化する論理は存在しない。

汗水たらして働いている労働者の報酬の500倍の報酬を企業トップが得る状況の放置が格差拡大をもたらしてきたのだ。共生社会を実現するためには、企業活動が生み出す果実である利益を適正に分配することが必要である。企業が生み出す利益は労働者と資本に分配される。資本の利益を極大化させる政策は、労働への分配を削減することである。

第2次安倍内閣が発足してからの日本経済では、経済全体が超低迷を続けるなかで大企業の利益が史上最高を更新し続けた。資本にとっては夢のような状況だが、労働者は苦しみを強要されるものだった。資本への分配は株主への配当、内部留保、役員報酬に配分される。分配のあり方が社会のあり方を決定する。分配のあり方を見直すことが求められている。

 

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植草一秀(うえくさ・かずひで) 1960年、東京生まれ。経済評論家(日本経済論、金融論、経済政策論)。東京大学卒業後、野村総合研究所、大蔵省財政金融研究所研究官、京都大学経済研究所助教授、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、名古屋商科大学客員教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役社長。