<桜を見る会前夜祭?ホテル見積り検討 5000円は違法?脱法?ニューオータニのおかげ?

政治経済

両角敏明[元テレビプロデューサー]

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大きなお世話であることは承知なのですが、「桜を見る会前夜祭」の会費5000円がありえるかどうか考えてみました。きっかけはTBSの「Nスタ」です。立憲民主党の石川大我参議院議員がホテルニューオータニから受け取った、「桜を見る会前夜祭」とほぼ同規模、ほぼ同じ部屋で立食パーティをひらく場合の見積り」を詳しく紹介したのです。さまざまな項目に単価×数量=合計額が示されたもので、もちろん税、サービス料込みです。

見積り上の金額は、800名参加で「お一人様13,127円」でした。

この「お一人様13,127円」という見積りには留意すべき点があります。

まず800名参加で800人分の飲食を用意する見積りであることです。菅官房長官でしたか、常識的にはこういったパーティで人数分の飲食は用意しない、という発言がありました。

また産経新聞に、総理の「前夜祭」に久兵衛の寿司は出ていないという記事がありました。この見積りには久兵衛かどうかはわかりませんが「江戸前寿司」を含む見積りです。

一方で、この見積りには大きな割引がすでに組み込まれている可能性があります。放送では室料をいくらに見積もられているかが伏せられています。ただし、通常の室料が270万円と書いてあり、他の数字を参照すればたやすくこの見積り上の室料が推算できます。38万円でした。よってこの「お一人様13,127円」は室料が86%ディスカウントされた見積りです。

この見積りに従って「一人様5000円」を実現するには大ナタを振るわねばなりません。飲食は参加者数の半分400名分、江戸前寿司はなし、室料86%割引はそのまま、というほとんどサイテー内容で計算してみました。結果は「お一人様5687円」。これでも会費5000円には少々届きません。

「安倍晋三後援会 桜を見る会 前夜祭」ですが、安倍晋三後援会名のお知らせやご案内状では「前夜祭」ではなく「夕食会」となっています。開始時間も午後6時30分でぴったり夕食時です。もし「お一人様5687円」の見積りどおりの内容なら、一流ホテルでの食事を楽しみにわざわざ山口県からやって来て、お腹をすかせて「夕食会」の会場へ入ってみたら、二人に一人相当のブッフェ料理しか用意されておらずかなりがっかりしそうです。しかも見積りの飲料は「ビール・ソフトドリンク」と書き添えられていますので、ワインやウィスキー、日本酒などはなかったのかもしれません。あまりにプアだと総理も一流ホテルも評判を落としかねません。

[参考]映画「記憶にございません」と「桜を観る会」騒動

それでも見積りは「お一人様5687円」です。5000円会費ならニューオータニはさらに1名あたり687円を値引きしなければなりません。結局、トータルおよそ292万円の値引きです。大部分が室料の値引きとは言え「売り上げ予測400万円に対して292万円の値引き」という受注は現実的でしょうか。これほどの大幅値引きになると株主に対する背任、政治団体に対する献金あるいは寄付行為などという声も出そうです。

この「夕食会」の会費について安倍総理は、

「費用は全額個人負担ですべて安倍事務所をとおさず直接支払っている。夕食会の参加者も受付で事務所のスタッフに支払い、ニューオータニの領収書を受け取った。集めた会費はまとめてニューオータニに渡されたので、安倍事務所には収入も支出も発生していない。よって政治資金規正法の記載義務はない。」

とくり返しています。これはとても不自然な構図です。

このとおりだと、ニューオータニは参加人数がわからないパーティを、大幅な値引きをした上で受注したことになります。そして、受付で安倍晋三事務所のスタッフがニューオータニの領収書を渡したのなら、ニューオータニは宛先不明、人数不明の白紙領収書を大量に安倍晋三事務所に渡したことになります。いかに相手が総理の事務所とは言え、ニューオータニともあろう一流ホテルがそんな無責任なことをするものでしょうか。

そもそも、参加者が支払ったのは主催が安倍晋三後援会である夕食会の会費です。夕食会は飲食ばかりか、総理夫妻の対応をはじめ様々なおもてなしを提供する催しです。その領収書を、「なぜ主催者でもないホテルが発行するのか」まったく理解できません。旅行代理店は夕食会の内容や値段について関与していないと文書で言明していますので、ホテルと交渉し、契約したのは安倍事務所以外に考えられません。ならば安倍サイドに明細書がないなどと言う安倍総理の説明は無理です。また、会費収入はホテル直接の形を取って安倍事務所をスルーさせても、契約金額に対して黒字、赤字が出た場合の出納処理は安倍事務所になり、安倍事務所に収入もしくは支出が発生したことになるのでは。

ツアー全体もまったく同じ構図です。旅行代理店は自社の企画・主催と文書で答えていますが、あくまで「そういう形にした」だけで実態上の主催者は誰が考えても安倍事務所でしょう。国から招待されないと参加できない「桜を見る会」ツアーの参加者を事前に募集できるのは安倍事務所だけです。さらに一般の開場時間前に手荷物検査もなく会場に入り、安倍総理と記念写真を撮る企画と運営を民間旅行代理店ができるわけがありません。

夕食会もツアーも、安倍事務所には収入・支出が発生しない形にして「公職選挙法、もしくは、政治資金規正法記載義務逃れの脱法行為」を目論んだ、と疑われてもやむを得ないのではないでしょうか。安倍晋三氏がもしも意図的に法の抜け道を画策したなら、それは「法の精神」と「道義」に反します。万々が一それが事実なら、「みっともない憲法」ならぬ「みっともない総理」と嗤われます。

逆に、今回の「お一人様5000円」が適法かつ道義的に問題なく実現できたとしたら、安倍事務所に対するホテルニューオータニの自発的超弩級サービスのおかげということになりそうです。どのような立場の顧客であろうとも、分け隔てなく最高のサービスを提供するの一流ホテルの品格と矜持と思いたいところですが、はてさて真実は・・・?

(事態はとても流動的です。11月19日時点の原稿であることをご理解下さい)

 

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