実は荒れていた?2019年M-1グランプリの審査

宮室信洋(メディア評論家)

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2019年のテレビ朝日「M-1グランプリ」は、ふわっとした感じに思うM-1であった。この感覚はさすがに言うだけでは共感が得られないので、データを利用しながらできるだけ客観的に検証してみたい。

データを使ったM-1の分析というとビッグデータを使った分析がWeb上で見られるが、M-1に限らずエンタメを対象とするビッグデータ調査というと、情報過多のズレた分析が多いように思う。ビッグデータ調査というのは、あらゆるデータを駆使することにより、客観的な答を得ようとするものであるが、結局はどのデータが重要なのかの目利きがうまくいかなければ駄目だということを示している。

特にエンタメ分析ではどこに着目すべきかの価値共有が測れない、いや単に調査者が目星がつかないのだろうか。もちろん調査者の主観を排したいということでもあるだろうが、エンタメのビッグデータ調査をみると、エンタメに興味のない調査者がビッグデータ分析の力を示すために話題のエンタメを使っているのか、あくまで主観を排してビッグデータ分析によって答を導いているということなのか区別がつかないことが多く、どうして分析をしたのか疑問を抱いてしまうものである。

ビッグデータという分析手法自体を疑問に付すわけではないが、ビッグデータなどと言って多数の情報を使わずともいくつかの情報で適切に分析すれば、より核心に迫ったある程度の分析ができるものと思う。そもそもエンタメに対してそのようなちゃんとした分析を施そうとするものはまずない。もちろんそれはそれで良いのだが、せっかくなので私はここではある程度主観(目利き)と客観をうまく統合するような分析を志したい。

といっても、複雑な分析をするつもりはなく簡単なものである。今回の M-1は本当にレベルの高いものであったのだろうか。本当にこれぞという優勝者や最終決戦者が選ばれたのであろうか。この疑問を検討すべく、2019年と2018年、2017年のM-1の審査データを元に、どれくらいの審査員が思った通りの結果になったかを調べてみたい。2019年の審査員のデータを見ると、優勝コンビであるミルクボーイに関しては、全ての審査員が一番の点数をつけている。

[参考]<芸能人で売れるのはメジャー顔>メジャー顔が全くいなかった2019年M-1

しかし、ナイツの塙や立川志らく 、中川家礼二は、ぺこぱを自身の評価においてトップ3に入れておらず、中でも志らくと礼二はぺこぱに対し相対的に言って高い点数をつけているとは言えない(それぞれ、志らくの中でぺこぱは6位、礼二の中では7位)。代わりに塙と志らくは和牛に対し、ともに彼らの自身の中での第2位の点数を与えている。同様に、2018年、2017年についても審査員がどれほど思った通りの結果になったのか調べてみる。

2018年のM-1グランプリでは霜降り明星が優勝し、ファイナルラウンドに進出したのは他に和牛とジャルジャルであった。2018年の M-1グランプリは非常に典型的な大会であり、なんとすべての審査員がトップ3以内にこの3組をあげていた。非常にスッキリした大会であったと言えるだろう。この比較だけでも今回の大会のふわっと感はある程度説明できてはいるが、もう1年遡り2017年の M-1グランプリの審査員のデータも見てみたい。

2017年M-1グランプリでは、とろサーモンが優勝し、和牛とミキが最終ラウンドに進出している。2017年M-1グランプリの審査員点数では、結果との大きなズレを取り上げれば、オール巨人がとろサーモンに自身において6位の点数をつけており、また博多大吉がミキに対し、自身において6位の点数をつけている。なお、松本人志は2年連続ぴったりとトップ3を当てていると話題になっているようだが、2017年においてはジャルジャルを1位にしている。翌年2018年のジャルジャルの高い評価に影響を与えているのかもしれない。もっと振り返っても面白いのかもしれないが、以上の比較から十分結論は出せるだろう。

まず、2018年のM-1グランプリこそ非常にスッキリした誰もが納得の行くような貴重な大会であったといえる。次に、2017年のM-1グランプリの審査員の点数を調べると、評価のばらつきは大きい方であったと思う。またそれと同時に大方納得いく結果であったとも言える。すなわち、全体的にバラついてはいるものの、一部の例外を除いて、ほぼすべての審査員が概ね思った通りの最終ラウンドとなっている。

さらに前年までの結果については調べてないので分からないものの、おそらくは似たようなもので、すなわち、パッとしないM-1が続いてきた中で(後でもこの点は確認される)、いつも通りまぁ大体妥当な審査結果と最終ラウンド進出者及び優勝者が選ばれてきたということである。そんな中、2018年に、熾烈な争いの中、霜降り明星というハッキリとした若手の期待の優勝者が現れたということである。

霜降り明星の優勝が M-1グランプリにとって大きなインパクトを与えたことは、いくつかの数字を見れば明らかだろう。まず、2017年、2018年の M-1グランプリが12月の序盤に行われているのに対し、2019年のM-1グランプリは、12月22日とテレビの特番的には非常によい日程で行われている。まずここで2019年のM-1グランプリに高い期待が寄せられていることがわかる。

当然これは前年の結果を受けてのものなので、すなわち、霜降り明星の優勝のインパクトの賜物と言える。個人的なことを言っても2019年の M-1グランプリはいつも以上に見たいという気持ちがあった。やはりこれは前年の霜降り明星の優勝のインパクトの影響だろう。歴代優勝者を並べてみても、M-1復活後の優勝者トレンディエンジェルは今も売れているものの、銀シャリととろサーモンに関してはパッとしないと言わざるを得ない。

なお、とろサーモンが実はもっと売れていたとはあまり思わないものの、2017年の M-1グランプリでスーパーマラドーナが比較的活躍していたことを審査員点数結果によって確認できることを考えると、今のスーパーマラドーナの停滞を見るにつけ、上沼恵美子批判騒動の影響はある程度あったのかもしれない。霜降り明星のインパクトについて話を戻すと、視聴率を見ればこれも明らかで2018年の大会以降17%を超える高視聴率をM-1グランプリは続けて獲っている。2019年の M-1グランプリも勢いは十分あったと言えるので、高視聴率になることは視聴率が出る前から私からすれば予想できたことであった。少なくとも今年2020年までは M-1グランプリの視聴率も安泰だろう。

さて最後に本題の2019年のM-1グランプリについて話をまとめよう(さらに年数を遡って検討しないのも本題は2019年のM-1グランプリについてだからである)。2019年の M-1グランプリの審査員の点数を見ると、全体的にまとまってはいるものの内部に大きなズレを有するものであった。すなわち、ぺこぱの点数である。単純に考えれば、ぺこぱだけ賛否両論であったと考えることもできるが、それだけならぺこぱは負けていたであろう。

こう書くと、和牛が陥れられたというようなことを想像してしまう人もいるかもしれないが、審査員が徒党を組むわけでもあるまいし、そのような陰謀論的な結論にはならない。私が考えるに、これまでの M-1グランプリではぺこぱは最終決戦に進むことはできなかったのではないだろうか。これだけ変わった漫才が評価されたのは、審査員たちの新しいものに対する不安ゆえであると思う。

つまりはここでも霜降り明星の優勝のインパクトが影響していると思われる。そもそも決勝進出者を見ても今回は知らないコンビばかりだという感想があった。ひょっとすると M-1グランプリ全体で新しいものを歓迎する示し合わせがあったのかもしれない。とはいえ決勝審査員にはそのような示し合わせはおそらくはしないだろう。つまりは空気感からして新しいものを歓迎しようという空気が霜降り明星の優勝の影響で生じていたものと思われる。2019年の M-1グランプリのふわっとした違和感はここにあったのだろう。

2019年M-1グランプリは、2018年のM-1グランプリの優勝者霜降り明星の影響で新しいものがとりわけ歓迎されたM-1グランプリであったのだ。最終決戦で松本人志だけかまいたちを選んだのも似たような感覚が影響しているのではないか。私は、2019年のM-1グランプリの審査は荒れているように実を言うと感じていたわけだが、調べてみると、ぺこぱを代表として新しい漫才への評価に前のめりとなったM-1グランプリとなったと思われる。しかしこの傾向が次回以降続くのかどうなるのかもまた不安定である。

 

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