フジテレビ「ただ今、コント中。」が残念だった理由

テレビ

高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]

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たくさんのレギュラー番組を持ち、人気も好感度も絶頂。コントを演じる実力は芸人のなかでは随一と思われるサンドウィッチマン。このサンドウィッチマンを使って、2時間10分のコント番組をやれるとする。コントを書く作家なら、誰でも皆うらやましいと思えることである。それが実現したのがフジテレビ8月29日(土)放送の『ただ今、コント中。』だ。筆者はもちろん見た。しかし、ひとことでいうと、残念な結果に終わっていた。その理由は追々述べるとしよう。

さて、この枠を得られたら、筆者なら、どういう番組を作ろうとするだろう。

まず、スケジュールの確認だ。サンドウィッチマンには、まるまる2日、時間を空けてもらう必要がある。リハーサル・稽古に1日、本番1日。最低これだけなければコントは撮れない。コントはドラマと同じだ。流し撮りで撮れる情報バラエティではない。

スタジオは2つは用意して、セットを移動しながら撮れるようにして効率化を図るべきだろう。もし、まとめてスケジュールが取れないなら、細かく分けて何度も撮ればよい。予定が空くまで待っても良い。大切なのは、サンドウィッチマンでコントをやりたいのだという想いを熱すぎるくらいにスタッフが語ることだ。(番組内トークでは3日掛けたそうだ。すばらしい。)

核にするコントは何にすべきか。これは、サンドウィッチマンの2人、伊達みきおと富澤たけしが演じるコントだ。他の人とからむコントより、2人きりの世界で演じるコントで評価されてきたコンビである。それを使わないという理由はありえない。これは最も強力な武器だろう。新作10分モノが3本は必要だ。もしかしたら「考える時間がない」というかも知れない。それでは待とう。もし待てないなら、あるいは考えるのが嫌だというなら、番組自体をあきらめよう(残念ながら2人だけのコントはなかった)。

コント作家としては、「サンドウィッチマン」で、コントをやりたいのである。風呂に入ってもらおうとか、クイズの司会をしてもらおうというのではない。「サンドウィッチマンが好きなコントを一緒にやりませんか」ということだ。出来れば、客入れでやりたいのだが、Withコロナの今、それは不可能だろう。せめて、ジャズのライブハウスのような、大人っぽいショウセットを作りたい。放送も夜10時からだ。

スタジオ撮りのコントセットは誰に頼もうか。ドラマの美術デザイナーを起用できないか。ぺらぺらのコントセットはいらない。

サンドウィッチマンのコントはレベルが高いが、唯一の欠点は「軽快感がない、スピード感がない」ということだ。それは彼らのガタイ(体格、図体)がデカく、見た目が重いからである。伊達と富澤の2人でやる時は、2人ともがデカイのでまだ良いが、相手役がいる場合は、キャスティングをきちんと考えないと貧相に見えてしまう。不思議なことだが、貧相な方が主役の場合はデカい方が脇役になる組み合わせも成立する。この場合、デカいほうは、デブで融通の利かない間抜けな役柄になる。サンドウィッチマンではデブが主役だ。

あとは、しっかりとしたコント作家に台本を書いてもらう。必要なのは設定、設定、設定。状況設定、人物(性格)設定、場所設定。この設定は基本的に虚実皮膜。あり得ない設定でも構わないが、見ている人にあり得ないと思われた瞬間、終わる。そう思われないうちに笑いが来ればセーフだ。笑いがあれば少々翔んだ設定でも大丈夫。

もちろん、あり得ないだけの設定はダメ。あり得ても、あり得すぎる設定はNG。それから、セリフばっかり書いてある台本はボツだ。動くことが大事なのだ。動くと言うことは芝居をすると言うことなのだ。

[参考]<タレントいじめ企画?>「水曜日のダウンタウン」が何をやりたいのか分からない

以下、実際に放送されたコントをそれぞれを考察してみたい。まずはその前に、 1980年代に放送されていた「今夜は最高」(日本テレビ)の中で、戸川純(歌手・女優)とシュールな全く笑いのないコントをやったタモリの落ちのセリフを紹介しよう。

タモリ『コントが面白い時代はもう終わった』(スタジオのスタッフ爆笑)

笑いをやっている人は演出家も作家もみんなそう思っていた。だからその頃からコント番組はなくなった。NHKの「LIFE」などがあるが、「LIFE」では一度も笑えたことがない。

『コントが面白い時代はもう終わった』のか? ここから番組でのサンドウィッチマンのコントを見てみたい。

(1)異星人来襲と地球防衛軍のコント。隊長・伊達の出撃命令に隊員が行きたくないと抵抗する設定だが、これは、各隊員が行きたくない理由についての大喜利をやるのと同じこと。大喜利はネタが面白いことが命なのに、隊長と隊員の人間関係が書かれていないので、ネタに比重がかからない。芝居になっていない。こういうコントこそペラペラのセットでやってはいけない。

(2)インターホンに映った「置き配」は絶対いやだと主張する配達員。それに出てしまったのが家の主人・かまいたち濱家。連作コントになっているが、これはバラさないでまとめるべき。いい設定だけど。濱家が間を埋めようとして喋りすぎるので興ざめ。間は、芝居で埋めないと、コントにならない。

(3)レンタル何でもツッコむ人。狩野英孝のツッコミが、旨いこと例えてツッコもうとするが、例えが当を射ていないというギャグはメタツッコミになっていて、面白かった。ツッコミとは何か、何のためにあるのか、それを批判するギャグは優れているが、ほかの人(伊達、アンジャッシュ児嶋)のツッコミは、ただのツッコミで、どこが面白いか分からない。

(4)富澤が扮したJ.Y. Parkがアルバイトの面接官をやる。似ているのだから、バイト希望者の伊藤沙莉以外、余計なツッコミ役やフリはいらない。

(5)伊達と富澤がガラケーの天使、ガラとケーのこびと妖精を演じる。2人は面白いのに、妖精に話しかけるかまいたち濱家がまたダメ。ここは、芝居の出来る女優でも、男優でも使えばいいのにと思う。この番組ではサンドウィッチマン以外のキャストがほとんど後輩芸人というのが、よく分からない。サンドウィッチマンが小者に見える。この座組でレギュラーを狙っているとしたら勘違い。

(6)伊達演じる演歌歌手・萬みきお。これは歌だけで良い。司会のいる意味が分からないし、いらない。

(7)サンドウィッチマンに各テレビ局のスタッフが、新番組の説明に来るが、内容が固まっていなかったり、いい加減だったりする。このコントが番組中最もおもしろかった。ゆりやん好演。ただ、伊達は、スタッフに対して、決して声を荒げて怒ってはいけなかった。怒らなくて優しいのがサンドウィッチマンの普段のイメージだ。どんな理不尽で意味不明な説明をされても怒らないが、スタッフが帰ってマネジャーだけになると激高する。その変わり身を設定に入れておけばもっと面白くなったのに。「怒っている芝居は止めて下さい」と伊達に面と向かって言う勇気が演出家に欲しかった。

(8)Snow Manが出演した寿司学校のコント。アイドルを使うのは視聴率対策だろうが、Twitterの投稿が実際に、番組には関係ないことばかりになっていた。善し悪し。

(9)アンジャッシュ児嶋の新しい相方を探すコント。児嶋

本人も言っていたが、もう時期的に、このネタに頼ると番組の格が落ちる。

(10)エステの契約を止めたい男。止めさせたくない店員。そこに現れるメンタリスタラー(かまいたち山内)。メンタリスタラーのフリがいい加減なのでなんで登場したのかわからない。画撮りのディレクターの責任。

(11)リアクション頼みのゲーム系企画はいらない。コント番組としては潔くない。

コントは「物語」だから、前に(時間的に先に)進まなければならない。同じ時点にとどまってぐるぐる回ってはいけない。コントは「芝居」だから演じなければならない。ふざけているのは芝居ではない。テレビは今起こっていることを伝えることが大事だが、見る人は、今、何かが起こっているのかを見ているだけではない。これから何かが起こりそうだから見続けてくれるのだ。コントの場合は特にそうだ。

 

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