<日本創成会議・2040年に“消滅する町”を発表>消える町には巨大なイオン・モールが建っていた

社会・メディア

高橋秀樹[放送作家]

 
消滅する町に行ってきた。まだ消えそうもなかった。
日本創成会議・人口減少問題検討分科会(座長・増田寛也元岩手県知事)が「ストップ少子化・地方元気戦略」と銘打って提言した全国市区町村別「20~39歳女性」の将来推計人口によれば、人口移動が収束しない場合において、2040年に若年女性が50%以上減少する自治体の数は、896ある。全国の自治体数は1741だから、51%にあたる。20~39歳女性というのは、出産可能年齢の女性である。
出産可能の女性が減るということは、子どもが生まれないということで、人口はどんどん減り町が消滅するということである。2040年といえば、あと24年後である。
僕が訪ねた町は。2040年に出産可能年齢の女性が、51.3%減ると推計されている山形県天童市である。僕が18歳まで過ごした故郷でもある。奥羽本線が町の真ん中を貫き、その上をミニ新幹線という名の在来線との行き違い待ちもあるニセ新幹線が走る町である。産業は将棋駒である。天童は24年後に消えるのか。
消えそうもないな、と思ったのには訳がある。奥羽本線の西側に巨大な東北最大級と謳われるイオン・モールがオープンして人でにぎわっていたからである。モール専用のJR新駅も来年にはできるというショッピングセンターには「H&M」「ユニクロ」「ヴィレッジヴァンガード」「大戸屋」「コーチ 」「サンリオ」「サーティワン」「スターバックス 」などが店を構え、その上シネコンまである。
天童では、むかし2軒の二番館が映画興行をやっていたが、つぶれてしまい映画館のない町になっていた。そこに40年ぶりにしかも封切館ができたのである。快挙である。
天童はわずか人口6万人の町だから、モールは天童だけでなく近郷近在の人も商圏に入ると踏んでいるのだろう。気になったのはモールの外観である。壁面天童名産の巨大な「左馬」がレイアウトされているのはご愛嬌だが、建物自体がどうも恒久的な重厚さを持っていないのである。はっきり言うとプレハブじみている。内装はきちんとしており、アラモアナ・ショッピングセンターかと思うゆったりした作りであった。
モールが建った場所は、元はきれいに区画整理された田んぼであり、西に月山、葉山、東に蔵王を望む気持ちのいい場所であった。明治時代初頭、ここを通った英国人の女性旅行家イザベラ・バードは東洋のアルカディア(理想郷)と、形容したほどの場所である。
僕が訪ねたその日は裏日本には珍しい五月晴れで、穏やかな稜線を見せる月山と、厳しい表情の葉山が、ともに雪をかぶって対照的な表情を見せていた。振り向くと蔵王が見えるはずだが、振り向いたらモールの建物に遮られた。
僕が高校生の頃、天童は僕にとって、出ていくべき町だった。巨人戦の結果は一日遅れで新聞に載るし、東京でやっている映画は山形まで行っても遅れてくるし、エスカレーターもデパートもなかったから、仙台まで見に行ったし、冬になると低くたれ込める灰色の雲が気持ちまでも圧迫するのだった。こんなことを書くと故郷に根を張っている友人から猛抗議がくるかもしれないが、そういう友達だって、暮らしが全部天童で完結はしなかったはずだ。天童では足りないものを求めて外へ向かって出て行った。
ところがイオンの巨大モールである。
このモールがあれば、東京と同等のことがここだけで完結してしまう。僕らの時代のヤンキーは神社や、河原にたむろっていたが、今度はモールがある。モールにたむろするヤンキーにとって東京は魅力的でも何でもない、だってここには同じものがあるのだから。
イオンのモールは「地方元気戦略」の有力な切り札のひとつなのだろうか。なんだかただの地方封じ込め政策のような気もする。
 
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