<興味を引くテレビ番組の条件>ノンフィクションのネタの探し場所はパソコンの中ではない

テレビ

高橋正嘉[TBS「時事放談」プロデューサー]
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ノンフィクションのネタを見つけるのは本当に難しい。
高層ビルの屋上から東京の景色を見ていたとき、ここに本当に面白いネタがあるのか、絶望的な気持ちになったこともある。どこに行けば良いのかさっぱり見当もつかないのだ。東京というのは広すぎる。広すぎて探しに行くこともできない。
特にレギュラー番組の場合は、先にネタの候補があって企画が決まっていくわけではない。逆にテーマを先に決めてネタは後から探すことのほうが多い。先にテーマといっても、広ければ広いほど途方にくれることになる。「何でも良いよ、面白ければ」というのが一番困る。
取材地域を先に決めてしまう方法もある。なんとなく「ソソる地域」だったら、ネタをそこで考える。確かにこれもひとつの方法だ。「何があるかわからないけど探してみてよ」というパターンだ。今もそんな手法の番組が続いている。中には長寿番組になっているものもある。
レギュラー番組になってしまえば、この方法には安定感がある。狭ければ狭いほど良い。他の人が知らないネタが出てくる可能性もある。逆に広ければ広いほど、容易に想像がつくネタ(どこかで見たことがあるネタ)が出てくることになるわけだ。
かつて日比谷界隈を絶望的な気持ちで歩き回ったことがある。「日比谷界隈で番組を作ろう」ということが決まったのだ。そこでさっそく有楽町から日比谷公園あたりをうろつく。しかし、景色を見ていても、ネタにはならない。帝国ホテル、宝塚劇場・・・どこかで見たことのあるネタばかりが思いつく。
そんなときに日比谷の交差点で「ある光景」を目撃した。この交差点で皇居のお堀の水が下水に流れ出しているのだ。結構な水量だった。「これだけの水量、どこから来るのだろうか? 雨?」それほど毎日降るはずもない。それに貯めておく場所もない。疑問がどんどんわいてくる。
調べてみると、皇居のお濠の管理は環境省がやっていた。聞きにいったところ、環境省の係官は親切だった。古地図を広げて皇居のお濠の歴史から教えてもらった。お濠の一番高い場所と低い場所は日比谷濠が低く、北の丸方面が高いそうなのだ。
「では、水はどこからやってくのか?」という疑問には、「皇居の中だ」という。江戸城はもともと、湧き水が豊富な場所にあり、道灌濠に水源があるという。もちろん、取材の申請をした。申請先は宮内庁だ。難しいかなと思ったが、すんなりと許可になった。こんな取材は申請されたことがなかったようだ。
道灌濠は吹き上げ御所の近くにある。自然が本当に豊かな場所だった。鳥だけではない、季節の虫がいる。そこに湧き水があった。今それほどの水量はない。築城のころ水量はもっと豊富だったようだ。
日比谷濠から流れ出る水量はこれではまかなえない。更に調べてみた。高速道路の水が注がれていることがわかった。北の丸の近くに、高速道路にたまった雨水をためておく施設がある。ある程度溜るとそれを皇居の濠に流すのだ。首都高速道路公団が管理をしている。そこの撮影の許可は警察だった。無事、撮影が出来ることになった。
もし魅力的な場所なら地域を限定するというのは有効な方法だろう。だが「見てみたい場所」というのはそれほどあるものではない。そこから迷走が始まる。場所ではなくて一般的にはテーマで限定するという方法になる。警察密着というような限定方法もある。行列の出来る店というような限定方法もあるだろう。どうやって興味を引く条件設定を作れるか、それが「企画のヘソ」だろう。
しかし、それは行ける場所がなければならない。会える人がいなければならない。間違っても探しものがパソコンやインターネットの中にしかないというのはいけない。
 
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