<日本エレキテル連合の完成度>「いいじゃぁー、ないのぉー」「ダメよ~、ダメダメ!!」


水戸重之[弁護士/吉本興業(株)監査役/湘南ベルマーレ取締役]

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ブレイク中の「日本エレキテル連合」について、あまり馴染みのない方もいらっしゃると思うので、まずは次のショートショートから。

2X世紀。長年連れ添った妻を失ったルドルフは、最新型アンドロイド、マリアを入手する。すでに人型言語ロボットすなわちアンドロイドは、一般の家庭でも見られるようになっていたが、今年は、それまでの多彩な表現力をもったアンドロイドに代わって、<言葉は少ないが言語外の「感情波」(エレキテルと呼ばれた)によってコミュニケーション可能なアンドロイド>が新発売されたのだ。

マリアが発する言葉は、”Yes”, “No”の2つだけ。それでもルドルフには十分であった。長い人生の中で彼は多くのことを学び、考え、語ってきた。語るべきことは十分すぎるくらいあった。彼が求めていたものは、いつも彼の話に耳を傾けてくれた美しい亡き妻の再生だった。

ルドルフはマリアに向かって情熱的に語り続けた。彼のこれまでの人生のすべてを。マリアはじっと彼の言葉に耳を傾け、つぶらな瞳でじっとルドルフを見つめるのであった。

ある日、ルドルフはマリアに向かって、妻に初めて会った頃の恋心と同じ気持ちを抱き始めていることを伝える。それに対して、人間の妻とは同列になれないことをプログラムされているマリアは、うるんだ大きな瞳でじっとルドルフを見つめ、静かな甘い声で「・・・No・・・」、とつぶやくだけである。

孤独な老人ルドルフはマリアをいっそう愛おしく思い、次第に自分の恋心を強く伝えるようになるが、マリアはプログラムどおり「No」と言い続けた。


想いが通じないことに怒ってルドルフが思わずマリアの頭をたたくと・・・、マリアは故障し、旧式のロボットのように首を振り始める。恐怖に駆られたルドルフは購入したプロダクションに「至急交換せよ!」と電話をする。それを聞いたマリアは、ついに感情を爆発させる。「ノォーーーーーー!!!」。映画「猿の惑星・創世記(ジェネシス)」で、進化した猿のシーザーが初めて発した言葉のように。

中野聡子(30)と橋本小雪(29)の女性コンビによる「日本エレキテル連合」(「爆笑問題」の事務所タイタン所属)のコントは、つまりは、こんな筋書である。・・・いや違うか。実際のコントの方をみてみよう。

中野が演じる<オカッパ頭でしわしわの小柄な「小平市在住の細貝」と名乗る老人>が、橋本が演じる<大きな瞳と白塗りの化粧の人型ロボット「おしゃべりワイフシリーズ・未亡人朱美(あけみ)ちゃん3号」>の手をなでながら、ひたすら、「いいじゃぁー、ないのぉー」と口説く。朱美ちゃんは手を振り払うこともせず、老人をじっと見つめたまま、ひたすら、「ダメよ~、ダメダメ」と言い続ける。

老人が奇妙なイントネーションで、「僕はねー、こんな年寄だけど、君に出会って、恋をする喜びを思い出したんだよー」と口説いても、はたまた、「前のご主人のように君をぶったりしないよー」と優しさをアピールしても、朱美ちゃんの反応は、「ダメよ~、ダメダメ」と同じ返事。

痺れを切らした老人は、セカンドバックから携帯電話を取り出して業者に電話をかけ、故障だとクレームをつけ、朱美ちゃんの頭をたたくと、朱美ちゃんは急に壊れだす。老人は、「仮出所妻さゆりちゃん」との交換を求める。すると逆上して朱美ちゃんが叫ぶ。「ダメよ~、ダメダメ!!」。

今年の流行語大賞の声もある「いいじゃぁー、ないのぉー」「ダメよ~、ダメダメ!!」とのセリフは、かつて一世を風靡したザ・ドリフターズ・加藤茶が演じた舞台上のストリッパーのセリフ「ちょっとだけよ~」を思い出させる。子供たちは、本能的にこれらの言葉の持つ「オトナのヘンな感じ」を感じ取り、面白がるのだ。

ただ、日本エレキテル連合の成功は、この決め台詞の発見だけではない。最後の見せ場、アンドロイドが壊れたときのカクカクした(ロボットダンスのような)顔の動きは、文楽のようでもあり、歌舞伎の「見得(みえ)」や「にらみ」のようでもある。

観客は、待ってました!と爆笑する。筆者は、映画「エイリアン」シリーズでアンドロイドのアッシュやビショップが壊れたときの不気味なシーンを思い出したが、それでも笑ってしまった。

ずっと昔、フランスの哲学者アンリ・ベルグソンは、笑いの要素として、「対象に対する無感動」「感性の沈黙」を指摘した(ベルグソン著「笑い」(1900年。日本では林達夫訳の岩波文庫が出ている)。そこでは、

「おかしみというものは、おもうにグループとなって集まっている人びとが、彼らの感性を沈黙させ、ただ彼らの理智のみを働かせてその全注意を彼らのうちの一人に向けるときに生まれるものであろう」

と言った。対象との間に一定の感情的距離があることが「笑い」の起きる条件である。

例えば、難しい顔をして歩いている立派な紳士が、すべってひっくり返った、という場合、本人の事情に全く感情移入しないで見れば笑ってしまうが、その紳士が尊敬する恩師だったり、自分の年老いた父だったら、笑いは起きない。

喜劇王チャーリー・チャップリンは「人生は近くで見れば悲劇であり、離れてみれば喜劇である。」と言った。事実は一つ、けれど、クローズアップは悲劇、ロングショットは喜劇。対象との感情的な距離が笑いと密接に関係することを喝破した。

日本エレキテル連合を至近距離で見るとき、そこには老人の孤独と性があり、未亡人や仮出所妻を選択してしまう猥雑な心理があり、ヨボヨボの老人の自分でも心理的に上に立てて歓心を買えると思えそうな相手を選んでしまう心情がある。

自分が購入したアンドロイドなのに、か弱い拒否にも腰が引けてしまい、故障だと決めつけ殴って壊してしまう。このコントの笑いの核心は、ロボットに恋した老人の哀しさにある。

最後に、朱美ちゃんは、初めて人間性を爆発させる。最後の語気荒い「ダメよ!ダメダメ!!」は(交換しないで!捨てないで!)との叫びだ。老人の愛は通じたのだろうか、それともアンドロイドの断末魔だろうか―。

さて、冒頭のSFショートショート、このコントにインスパイアされた筆者の妄想作文である。朱美ちゃんに叱ってもらえるだろうか

「勝手にかいちゃぁ、ダメよ~、ダメダメ!!」

[メデイアゴン・主筆の高橋コメント]日本エレキテル連合が好きな方には業田良家・作『新・自虐の詩 ロボット小雪』(竹書房)をお薦めします。文庫本版は『ロボット小雪』(竹書房文庫)のみのタイトル。『自虐の詩』とは、趣が全く違からでしょう。

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水戸重之

水戸重之(みと・しげゆき)弁護士として、映画、音楽、放送、芸能界、スポーツ関連の仕事を25年にわたって続けている。吉本興業(株)監査役、湘南ベルマーレ取締役。早稲田、慶応、筑波の各大学で教壇に立つ。日本人メジャーリーガーの日本側代理人を務める(石井一久、高津臣吾、齋籐隆、福留康介、黒田博樹、川上憲伸、青木宣親、田澤純一他)