<追悼・國弘正雄さん>人類は歴史に学んだか?國弘正雄の「分かりやすい反戦の言葉」

政治経済

榛葉健[ テレビプロデューサー/ドキュメンタリー映画監督]
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日本の同時通訳の第一人者で文化人類学者だった國弘正雄さんが、11月25日に老衰で亡くなった。84歳。
今から25年前、ある政治テロ事件が起きた時に、國弘さんと筆者は偶然、その現場にいた。後日その國弘さんに取材した時の、戦争やテロを否定する明快な話が忘れられない。

「人類は有史以来、最初は、争いを解決するために、互いに殺し合いました。でもやがて、『殺すのは良くない』と考えるようになって、 殴り合いなどいのちを奪わない方法で、争いを解決するようになった。やがて人類は更に進化して暴力に頼らず、《対話》で、問題を解決するようになったんです。戦争とは、そうやって人類が時間をかけて学んできた 知恵を否定することです。だからダメなんです」

ニュースキャスターでもあった國弘さんの話は、分かりやすかった。
國弘さんは14歳の時、神戸で太平洋戦争の空襲に遭い、親しかった知人の最期を看取っている。爆弾を落とされる側で殺されるという現実感を持った。神戸空襲の犠牲者は、阪神・淡路大震災より多い、推定8800人以上、日本の五大都市の空襲の中で、人口に対する犠牲者の率は最悪といわれる。
今、世界は、暴力で争いを解決しようとする思考が加速している。
隣国同士牙を剥く。宗教の名のもとに市民を虐殺する。為政者たちは、「敵」を作ることで、自分たちの存在価値を大きく見せようとする。市民たちはその扇動に煽られ、まるでスポーツ観戦者のように他者を攻撃する・・・。
私たちは、冷静でいられるか。「敵を倒せ」というある種の高揚感がエスカレートする中、人類が時間をかけて手にした「《対話》で解決する」という知恵を、今一度、自らに問う時が来ているのではないか。
國弘さんは、今の世界を心配しているに違いない。
 
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