<契約結婚の結末はいかに?!>東山紀之の好演が光る日本テレビ「◯◯妻」の魅力

テレビ

水戸重之[弁護士/吉本興業(株)監査役/湘南ベルマーレ取締役]

***

日本テレビの水曜ドラマ「○○妻」(まるまるづま)。「家政婦のミタ」の遊川和彦脚本ということと、「○○」に何が入るか、という遊び心もくすぐるタイトルで期待された。
白無垢の柴咲コウが三つ指をつく予告も印象的だった。主題歌の椎名林檎「至上の人生」も、ドラマの緊張感を高める。
ニュースキャスター・久保田正純(東山紀之)の妻ひかり(柴咲コウ)は、美人だが控えめで、炊事洗濯などの家事は完璧。夫のコーディネーも完璧にこなし、夫のテレビでの発言を聞き直し、アドバイスのメモを置いてから寝る。「内助の功」のお手本のような妻。実はこの夫婦には秘密があった。
秘密は第1話から明かされる。2人の関係は契約結婚であり、婚姻届を出していない事実婚の関係だった。なぜ契約書? なぜ入籍しない? 柴咲コウの謎めいたひかり役の芝居で、第2話以降への期待が高まった。
完璧に見えたひかりの過去が徐々に明らかになる。元看護師で離婚歴あり。育児ノイローゼになって子供を死なせてしまったこと。ストイックなまでの夫への献身は、悔いる過去への償いでもあった。
一方、番組で久保田正純のアシスタントを務める風谷愛(蓮佛美沙子)は久保田にあこがれてジャーナリストを志した女性。密かな恋心を抱き久保田への無償の愛を注ぐのを偶然にも、ひかりは目撃してしまう。過去のある自分より、正純にふさわしいのは風谷愛だと身を引こうと決意する。
このドラマ、柴咲コウの完璧で献身的な妻なのに、契約結婚しか受け入れず入籍を拒否しつづける正体不明さがポイント。この「ナゾ」でどこまでひっぱれるか、が見どころと思われた。
実際は、意外に早く謎が明かされ

<正純を愛しているのに自分の過去を引きずって受け入れられない、でも愛してる>

みたいな、あえていえば「ふつうの葛藤ドラマ」になってしまう。もう少しサスペンス感をひっぱってほしかったのに、と思ったのは「家政婦のミタ」を意識しすぎか。だが、このままで終わるドラマではなかった。
このドラマでの発見は、なんといっても、キャスター・久保田正純役の東山紀之である。筆者としては、「少年隊」でシュッとした感じでダンスしている人。トーク番組でもカッコよく自分を崩さない人、といったくらいの印象だった(すみません、筆者の認識不足です)。むしろ、カラオケに一緒に行った奴が「仮面舞踏会」や「君だけに」を歌うのを聞くと、イラっとしたものだ(これはヒガシの責任ではないが)。
ところが、このドラマのヒガシは、実際にいるニュースキャスターを思わせる演技。カッコのつけ方と言い、社会派のキャラクターといい、次第に本物っぽくみえてきた。それでいて素の場面では自己顕示欲を見せたり、スタッフにキレたりする姿は、大袈裟な中にもリアリティが感じられた。
ヒガシは、このドラマの前に、リアルな番組でキャスターを務めている。尾木ママこと教育評論家の尾木直樹とともにキャスターを務めるNHK・Eテレの「エデュカチオ!」だ。
これは子供をとりまく環境についての社会派番組だが、二児の父であるヒガシの、教育問題へのリアルな向き合い方がみられた。番組ホームページに掲載された写真のヒガシは、まさにドラマの「久保田正純」である。
契約結婚といえば、哲学者のサルトルとボーヴォワールが有名だ。1929年、サルトルは互いの自由恋愛を認める契約結婚をボーヴォワールに提案し、ボーヴォワールはこれを受け入れる。ボーヴォワールはサルトルの女性関係に嫉妬しながらも、関係を続け、結局サルトルが亡くなるまでそばにいた。
フランスで事実婚が多いのは、この二人の影響が大きいんじゃなかろうか。1999年にPACSという契約結婚の制度ができる、実に70年前の話である
このドラマの最後は、契約書の必要のない絆が生まれ、そのとき初めて二人は入籍する、というオチは予想できたが、そこで終わらせる遊川和彦ではなかった。入籍し幸せ一杯の生活を始めたときに、二人がガラの悪い高校生に絡まれて大けがをし、ひかりは意識不明で入院。正純らはスキャンダルの当事者になってしまう。
最終回(3月18日)。自分の言葉で語ることを封じられ、さらにはメインキャスターを降板させられた正純であったが、訪ねてきたプロデューサーの板垣(城田優)から、番組に出て自分の言葉で事件の真相と社会に訴えたいことを伝えることを要請される。
久保田正純こと東山紀之はどんな言葉で何を話すのだろう。ひかりは目を覚ますのだろうか。遊川マジックのみせどころである。
 
【あわせて読みたい】