<ベテラン相撲記者が注目する大相撲春場所>白鵬の「13日目優勝」を阻止した照ノ富士


北出幸一[相撲記者・元NHK宇都宮放送局長]

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白鵬の13日目優勝を阻止した照ノ富士

大相撲春場所は横綱白鵬が歴代最多記録を更新する34回の優勝で揺るぎない存在感を示した。しかし、終盤の土俵を盛り上げたのは、横綱、大関陣ではなく春場所が新関脇の23歳の新鋭照ノ富士だった。

13日目の取組で全勝街道を突き進んでいた白鵬を見事に寄り切って土をつけ、まれに見る名勝負を演じた。白鵬が照ノ富士に勝って13日目に優勝を決めていたら、輪島以来42年ぶりに2場所続けて13日目に優勝が決まるという記録が達成されていたのだ。その白鵬にストップをかけたのが照ノ富士だった。春場所を盛り上げた新ヒーローが誕生したのだ。

  • 鳥取城北高校の後輩逸ノ城に先んじられた三役昇進

照ノ富士は平成3年11月29日生まれの23歳。モンゴル・ウランバートル出身で、去年の秋場所に怪物と騒がれた逸ノ城と同じ飛行機で来日し、鳥取城北高校相撲部で稽古を重ねてきた。

初土俵は平成23年の初場所で、これまでは2歳年下の逸ノ城の方が注目されてきた。新三役は逸ノ城が去年の九州場所で、照ノ富士は輩逸ノ城に先んじられていた。

  • 兄弟子安美錦のけがで奮起

春場所序盤、照ノ富士が所属する伊勢ケ濱部屋の力士は好調だった。特に照ノ富士と兄弟子のベテラン安美錦は快進撃で勝ち越していた。暗が分かれたのは10日目。安美錦が徳勝龍に押し倒されて2敗目を喫した時、前に痛めていた右ひざのじん帯を再び痛め、右前十字じん帯断裂で1か月の治療が必要だった。

安美錦のけがで奮起したのが、弟弟子の照ノ富士だった。安美錦は休場後、紙に「ガナ(照ノ富士の愛称)頑張れ!!」と書いて、伊勢ケ濱部屋宿舎の廊下に張って激励した。

  • 逸ノ城との水入りの大熱戦

兄弟子の思いを受け13日目に白鵬を破って1差とした照ノ富士は14日目に、常に背中を見て追いかけてきた後輩逸ノ城と対戦した。初場所は水入りとなったこの顔合わせ、春場所も2場所続けて水入りとなる大熱戦。3分30秒で水入りとなると照ノ富士は土俵下で水を飲んだが厳しい表情には疲れが見えた。

しかし、がっぷり四つに組んでの再開後、逸ノ城の上手を切って寄り切り。照ノ富士は同じ顔合わせの2場所連続の水入り勝負を制して1敗を守った。

  •  白鵬との千秋楽の優勝争い

千秋楽の三賞選考委員会で照ノ富士は初めての殊勲賞と2回目となる敢闘賞のダブル受賞が決まった。千秋楽の結びの一番の2つまえの大関豪栄道との対戦。照ノ富士は豪快な小手投げで豪栄道を仰向けにして勝って2敗を守り支度部屋に引きあげてきた。

結びの一番で部屋の横綱日馬富士が白鵬に勝てば優勝決定戦となる。支度部屋のテレビで白鵬と日馬富士の取組を見守った。日馬富士は激しく白鵬を攻めたてたが、最後は左上手を取られて力尽きた。白鵬が14勝1敗で34回目の優勝を果たした。

  • 夏場所、大関への期待ふくらむ

力士の昇進を判断する審判部の伊勢ケ濱審判部長(元横綱旭富士)は照ノ富士が夏場所で14勝以上あげれば大関昇進の可能性があるという考えを示した。

照ノ富士の師匠でもある伊勢ケ濱審判部長は、

「それだけ勝っていれば、可能性はゼロではない。相撲の勝ち方なども関わってくる」

と話した。照ノ富士は夏場所に向けて「来場所も2桁勝って、それから一番一番集中して勝ちにつなげていきたいです」と意欲を燃やしている。大関昇進の目安は直前の3場所三役で33勝。照ノ富士は初場所が平幕で8勝。春場所が関脇で13勝である。

夏場所、大関昇進への期待もふくらみ、照ノ富士の土俵が一層注目される。

 

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北出幸一

北出幸一(きたでこういち)相撲記者。 石川県小松市出身。元NHK記者。1980年、NHKに入局し、大相撲、五輪、プロ野球などの取材を担当。大阪局広報部長時代には「てっぱん」「カーネーション」など「NHK連続テレビ小説」のPRを担当。2011年から3年間は宇都宮放送局長を務めた。宇都宮では好球必打、“打つのみや”の精神で、県域テレビ放送開始、開局70周年記念栃木発地域ドラマ「ライド ライド ライド」の制作を指揮した。2014年6月にNHKを定年となり、同年7月より「NHK大相撲ジャーナル」の取材記者。