<視聴率よりも正確に視聴回数を調査>6割の大学生はテレビドラマを1回も見ていない

社会・メディア

藤本貴之[東洋大学 准教授・博士(学術)/メディア学者]

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テレビ番組の視聴率とは、現在、関東地区の場合で、島部除く東京都・神奈川県・茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・千葉県から600世帯を抽出し、そこから収集されたデータから算出されている。

この時発生する世帯視聴率の誤差は、視聴率10%の場合で±2.4%。つまり、視聴率10%の番組とは、もしかしたら7.6%かもしれないし、逆に12.4%かもしれないというわけだ。600世帯というサンプル数とこの誤差から、視聴率の不正確さが指摘されることは珍しくない。

もちろん、視聴率とは「見ていないけどテレビをたまたまつけていた」場合でも「消し忘れたテレビでたまたまそのチャンネルがついていた」という場合でも、調査機械が設置されていれば、視聴率にカウントされる。つまり、視聴率とはあくまでも「チャンネル設定率」なのだ。

視聴率よりも正確なテレビ番組の視聴状況を示す指標はないのだろうか?

この疑問から、東洋大学総合情報学部・藤本研究室(情報デザイン/メディア構造論)では、大学生を対象に、「調査期間(2015年5月3日〜5月9日)に視聴したテレビドラマ」について、最もシンプルな方法を用いた視聴状況の調査を実施した。対象とした番組は、キー局地上波で現在週1回で放送されている連続ドラマ25番組である。

調査対象は、18歳から25歳までの首都圏の大学生645人(男性453人・女性192人)である。対象となった大学生の所属は筆者の勤務する東洋大学を中心に、明治大学・専修大学・東海大学・駒沢大学・法政大学・日本大学・早稲田大学・大東文化大学などである。

調査期間で視聴したテレビドラマを一覧表から選択式により回答してもらう方式をとった。
まず、調査期間での関東地区の視聴率(ビデオリサーチ社調べ)の上位10番組を以下に示す。

<視聴率(ビデオリサーチ):サンプル数600世帯>
1位 13.9%・水曜「Dr.倫太郎」(日本テレビ)
同  13.9%・水曜「警視庁捜査一課9係」(テレビ朝日)
3位 12.6%・木曜「アイムホーム」(テレビ朝日)
4位 11.4%・日曜「天皇の料理番」(TBS)
5位 11.1%・土曜「ドS刑事」(日本テレビ)
6位 10.8%・金曜「アルジャーノンに花束を」(TBS)
7位 10.2%・日曜「花燃ゆ」(NHK)
8位 10.0%・月曜「ようこそ、わが家へ」(フジテレビ)
9位  9.5%・金曜「三匹のおっさん2」(テレビ東京)
10位   8.5%・火曜「マザー・ゲーム」(TBS)
(ビデオリサーチ調べ:期間2015年5月3日〜5月9日)

上位8番組が視聴率10%を超え、概ね10%前後の数値が、ドラマトップ10になるための視聴率となっているようだ。

次に、今回実施したアンケート調査の結果である。

回答者645人中、384人(59.5%)の大学生が、調査期間の一週間で「一度もテレビドラマを見ていない」という結果であった。よって、総視聴回数932回とは、261人(40.5%)の学生によって視聴された回数となる。

実施した調査結果による視聴回数の上位10番組を以下に示す。

<大学生645人の視聴回数調査:総視聴回数932>
1位  8.3%(77視聴)月曜「ようこそ、わが家へ」(フジテレビ)
2位  6.0%(56視聴)金曜「アルジャーノンに花束を」(TBS)
3位  5.4%(50視聴)火曜「マザー・ゲーム」(TBS)
4位  4.9%(46視聴)日曜「ワイルド・ヒーローズ」(日本テレビ)
5位  3.5%(33視聴)木曜「アイムホーム」(テレビ朝日)
6位  3.2%(30視聴)火曜「戦う!書店ガール」(フジテレビ)
同   3.2%(30視聴)土曜「ドS刑事」(日本テレビ)
8位  2.9%(27視聴)日曜「天皇の料理番」(TBS)
9位  2.8%(26視聴)水曜「心がポキッとね」(フジテレビ)
同   2.8%(26視聴)水曜「Dr.倫太郎」(日本テレビ)
(東洋大学・藤本貴之研究室調べ:期間2015年5月3日〜5月9日)

そもそもの前提として、約6割の大学生が一度もドラマを視聴していない。そのため、視聴回数の占有率も、最高で「ようこそ、わが家へ」(フジテレビ)の8.3%(77視聴)であり、占有率が一割を超えるテレビドラマは本調査からは存在していない。

世代を区切っているわけではない世帯視聴率と比べ、大学生を対象とした今回の調査は、そのランキングも視聴率とは大きく異なる。

また、ランキングといっても、調査で1位となった「ようこそ、わが家へ」がやや目立つ程度で、あとは軒並み「申し訳程度」の差で順位が付いているに過ぎない。つまり、テレビドラマの視聴回数には、大きな差はついておらず、「ほとんど差がつかない程度に、満遍なく『少数者に視聴されている』」ということが実態だ。

下位10番組は、いづれも視聴回数9回以下であり、占有率も1%以下。下位5番組に至っては、視聴回数3回以下(0.3%)だ。261名もの「ドラマを見た大学生」がいるにも関わらず、5分の1のテレビドラマが調査対象の大学生からは3回以下しか見られていないわけだ。

世代や年齢層が変われば視聴回数も変動するのかもしれないが、下位にランクしている番組の中には、若者をターゲットにしたと思われるドラマも少なくない。

ビデオリサーチ社による視聴率では1位(13.9%)の「Dr.倫太郎」(日本テレビ)に関しても、今回の調査では9位と視聴率とは随分と印象が異なる。もちろん、9位といってもわずかに26視聴、占有率にして2.8%でしかない。

「Dr.倫太郎」と視聴率で同列1位(13.9%)であった「警視庁捜査一課9係」(テレビ朝日)にいたっては10位以内にはランキングされていない(16位・11視聴・占有率1.2%)。ビデオリサーチ社の視聴率でいかに上位にあろうが、大学生からの視聴はほとんどされていないことがわかる。

上位5位未満のドラマは、視聴回数も30前後〜それ以下となっており、932回の総視聴回数から見れば、ほぼ「端数」といってもよい数値である。もはやランキングをつけるのが馬鹿らしくなる数字かもしれない。

視聴率と実際の視聴回数を比較することで、テレビドラマにおける若者層の視聴動向を分析するつもりで実施した今回の調査。しかし、結果として、今日、テレビドラマは大学生たちには、分析ができるほどの視聴がされていない、という皮肉な結果となった。

もちろん、大学生を対象とし、視聴率と調査方法や計算方法も異なる今回の結果だけで、必ずしも視聴率との単純な比較はできない。しかし、それを十分に理解した上でも、大学生が「テレビドラマをほとんど見ていない」ということ、そして「視聴ランキングにほとんど差(意味)がない」という事実には驚かされる。

流行やタレント・俳優たちの人気を推し量るバロメーターにもなっているテレビドラマ。現在でも、季節の変わり目に、ドラマの動向がテレビや雑誌で話題になることは少なくない。

しかしそのようなブームや流行、話題を牽引しているはずのテレビドラマを、大学生たちはほとんど見ていないという事実。また、数少ない視聴している番組でさえ、極度の低空飛行であり、ランキングはあっても、そこにほとんど差は見出せない。作り手たちの必死の努力が全く若者には届いていない、といえるかもしれない。

現在の「テレビドラマを見ない大学生」たちが、将来的に、テレビドラマの主要な視聴者へと劇的に変化してゆくとは考えずらい。メディア接触とは、ライフスタイルであり、一度身についたライフスタイルはなかなか放棄できない。一方で、一度放棄されたライフスタイルが再び急激に回復することはないからだ。

今後、さらなるテレビドラマの視聴状況の低下は加速してゆくだろう。そう考えると、「テレビはどの段階までテレビドラマを作り続けるのだろうか?」と素朴な疑問を持ってしまう。
たとえ若者が誰一人テレビドラマを見なくなったとしても、「話題を生み出す(はずの)テレビドラマ」を作るのだろうか? 冷静に考えれば、なんとも物悲しい話だ。もちろん、これはテレビ業界全体に言えることなのかもしれないが。

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