「反・意識高い系」の女子高生作家のデビューに見る「世に出たくない」という感性


安達元一[放送作家]

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「意識高い系」という言葉をよく目にする。SNSを駆使して、自分の経歴や人脈を過剰に演出したり(いわゆる「盛る」という状態)、充実した社会活動をアピールしたり、そこから人脈拡張に精をだしている「実は大したことない人」たちのことを指すようだ。

それは、実績が目に見えづらい大学生のような若い世代に多い。社会活動をするためのサークルやNPOを立ち上げたり、参加することを自己目的化している大学生たちがその典型例だ。そのサークルや団体が目指していることが「目的」ではなく、「そんな目的をもった団体を主催・参加していること」が目的なのである。

最近では、そのような動きが高校生にまで散見されるようになった。SNSなどで散見されるいわゆる「リア充」をアピールするための素材でもあるのだろう。また、大学受験における推薦入試の比率が高まる中、高校生たちも「自分のブランド力の向上」のために、「意識高い系高校生」へと変貌している例も多いように思う。

悲しい(?)ことに、筆者の周りには、そういった「意識高い系」の若者が多く集まってくる。もちろん、「本当の力」がない彼ら・彼女らは、こちらが何をするでもなく、勝手に現れては勝手に消えてゆくので、あまり実害はない。

しかし、実害はないにせよ、そういった若者たちが目の前で頻繁にチラつかれると、それはそれで気になるし、最近はやや食傷気味というか、自意識過剰な「意識高い系」な若者たちへの苦手意識を持つようになっているのも事実である。

そんな中、筆者が講師を務めているビジネス講演会に一人の女子高生が参加してきた。当時、高校1年生。大人を対象としている講演会なので、内容はそれなりに高度だし、高校生がすぐに利活用できるものにも思えない。参加費だって、大人向けなので、高校生には決して安くはない。

ビジネス企画のためのアイデア創出のスキルを磨くための筆者の講演会の情報をどこで知ったのかは定かではないが、その女子高生は父親に伴われて参加してきたわけだ。

その時の直感は、

「もしかして、これが噂の『意識高い系』の高校生?」

という、疑いの目だ。大人のビジネス講演会やセミナーに参加したり、異業種交流会で名刺交換をしたり、自分の売り込みを始める大学生は少なくない。それの高校生版ではないか、と。

やがて、講演会を介してひょんなことから、彼女とメールのやりとりをするようになって、また、彼女も何度か筆者のセミナーや講演会に参加してくれるようになっていた。

しかし、交流をすればするほど、今時の女子高生とは思えない、前向きで真剣な人物であることがわかってきた。大人向けの講演会などに参加しているのも、彼女なりに本気で勉強したり、経験したいことがあるからであったこともわかった。

つまり、結論から言えば、彼女は「意識高い系」ではなかった。

交流してゆく中で、彼女の考えていることが、女子高生ならではありながら、それがしっかりとしたポリシーに貫かれており、なかなか魅力的な人物であることもわかってきた。ちょっとイヤラしい話ではあるが、ルックスも決して悪くないし、在学している学歴も申し分ない。そして何よりもマジメだった。

そうなると、放送作家・プランナーとしての職業病だ。どうにかして彼女を世に出してみたいと思うようになった。もちろん、女子高生なので、保護者や学校の許諾も必要だろう。もしかしたら、方々から反対を受けるかもしれない。想定される「障害」をクリアするために、色々とシミュレーションをめぐらしていた・・・しかし、そんな危惧はまったく別の方向から現れた。

本人が「嫌だ」と申し出てきたのである。

これにはさすがに驚かされた。大人向けの講演会やセミナーに出て、決して小さくない額の投資をしてまで勉強し、経験を重ねている「女子高生」が、自分が「世に出る」ことを拒絶してきのだ。

「世に出たい」わけではないなら、なぜ、そこまで自己研鑽を図るのか。そこでの学びはマイナスではないにせよ、通っている高校ですぐに活かせるような知識やスキルは多くはないだろう。むしろ、世に出るための知識でありスキルばかりだ。実際に、筆者の講演会やセミナーに参加する人で、「世に出るための」のチャンスを求めてくる人は少なくない。

断られるとなおさら火がついてしまうのも、職業病だろう。色々と話をした結果、「ペンネーム」で作家としてデビューすることで落ち着いた。もちろん、顔出しや個人や学校が特定できるようなものも、一切出さないという形で、だ。

そして三ヶ月。筆者がゴーストライターのようなことはしないし、特別な手助けもしなかった。これは、彼女自身が選択したことだ。そうやって原稿は書きあがった。

もし、それが「女子高生の作文」であれば、容赦なく出版社には「ごめんなさい、やっぱ書けなかったです」とあやまって取り下げる覚悟だった。

しかし、出来上がった本は、見事に商業出版の水準をクリアしていた。これは見事としかいいようがない。当初、「意識高い系女子高生」と怪しんでいたわけだが、嬉しい形で裏切られた格好だ。

彼女の名前は「須堂紗奈(すどうさな)」。もちろん、本名とは一切関連性のない完全なペンネームだ。2015年4月に出版された「女子高生が考える十代の生き方」(麻布書院)が須堂紗奈の処女作である。

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本の宣伝を書くわけにもゆかないので、紹介は割愛するが、「いまどき珍しい」マジメな女子高生の考えがみずみずしく描かれている。巻末には一応、プロフィールが書いてあるが、個人が特定できるものは何も書かれていない。

せっかくなので、著書を自己宣伝に使えばいいのにな、と思ったが、見事に何も書かれていない。現在、高校3年生になった須堂紗奈は、筆者が嫌悪してやまない「意識高い系」な若者からは最も遠い感性をもっているように思う。

自意識過剰で大人の評価ばかり気にして「大人ごっこ」に勤しむ「意識高い系」諸君にはぜひ見習ってもらいたいものだ。

 

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安達元一(あだち・もといち)放送作家。1965年生まれ。バラエティ番組を中心に活躍する放送作家。株式会社モトイチエンタテインメント代表取締役。近年では教育ビジネスの分野でも活躍。一般社団法人ビジネスプロモーション協会理事。コンテンツブレイクスルーカレッジ主宰。アイデア工学Works主宰などその活動は多岐に渡る。第57回国際エミー賞入賞「たけしのコマネチ大学数学科」、第42回ギャラクシー賞テレビ部門大賞受賞「笑ってコラえて!文化祭 吹奏楽の旅 完結編 一音入魂スペシャル」、2007年国際平和映画祭JAPAN in こしの都、グランプリに当たる「こしの都賞」受賞「一宿一通」、処女小説「LOVE GAME」(幻冬舎)を上梓、読売テレビにて連続ドラマ化など。