劇団・大森カンパニー『あじさい』で下北沢劇場双六が「上がり」
メディアゴン編集部
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いま一番面白いエンターテインメントは「リアル」だ。
大メディア・テレビの番組に今ひとつ面白いものが見当たらず、なにか面白いものはないかと物色している。ここ2年ほどは、編集部では数多くの舞台、つまり板の上で生で演じられる芝居やショーを数多く見つめてきた。春風亭昇太の落語、美輪明宏ロマンティック音楽会、中村吉右衛門の絵本太功記、NHKホールの岡崎体育ワンマンコンサート「エキスパート」。神田松之丞の新春連続読み「慶安太平記」完全通し公演・・・などなど、少なくとも編集部で足を運んだものは皆面白かった。
いずれも会場には現在のテレビ・エンターテインメントの世界には絶えて久しい熱気が篭っていた。テレビなんか見てないで、今こそリアルを見る時だ、と痛いほど感じさせられる。その面白いリアルとして、以前から編集部が今、最も注目している「リアル」は、喜劇役者・大森ヒロシが率いる「大森カンパニー」だ。人情喜劇シリーズと、キレの良い芝居コントを2つの目標と定めてもう何年も研鑽を積んで来た。
その大森カンパニーが、「人情喜劇シリーズ第8弾『あじさい』(2019年2月20日〜24日)」で満を持して、下北沢劇場双六の「上がり」とも言える本多劇場の板を踏む。下北沢劇場双六とは、数多くの小劇場を抱える演劇の町・下北沢で、極小の劇場から始まり、徐々に客席数の多い、ブランド力のある劇場へとステップアップしてゆくことだ。その頂点に本多劇場がある。
代表を務める大森ヒロシ(演出・脚本)に、本多劇場に挑む意気込みを聞いた。
<以下、インタビュー>
(メディアゴン編集部)初の本多劇場公演に向けていかがですか?
(大森ヒロシ)僕が芝居を始めた1988年、下北沢には3つの劇場しかありませんでした。駅前劇場・スズナリ・本多劇場。中でも本多劇場はその総本山とも言うべき存在。下北沢で芝居をやることは役者の一つのステータス。小劇場からいつか本多劇場へ。「下北双六」当時そんな言葉がありました。
所属していた劇団が東京ヴォードヴィルショーだったこともあり、僕は早くからこの憧れの劇場に立たせて頂きました。但し、組織に属するイチ役者として。30年の間、沢山の場で芝居をさせて頂きました。芸能事務所をリストラされた2006年、自分のやりたいことは果たして何かと問うた時、僕は活動の場を舞台にしようと決めました。多くの人から笑われ、バカにされ陰口も叩かれました。
「舞台だけでやっていけるわけないだろ」・・・やってやろうじゃないの!以来多い時で年間9本、平均5~6本の舞台に関わり、2009年にはカンパニーを立ち上げ、時に自らホンを書き、演出をして来ました。こうして自分のカンパニーで本多劇場で公演を打てることは感無量。感謝しかありませんが問題はここから。本多劇場キャパ386名。5日間7ステージ。やるからには満席にしたい。良い作品を創ればお客さんは必ず増える。これを信じてやるしかない。
(メディアゴン編集部)公演作「人情喜劇シリーズ第8弾『あじさい』」について聞かせてください。
(大森ヒロシ)「一人一人の悲しみを持ち寄って一つにすると 幸せが咲きました」・・・『あじさい』はこのコピーに集約されるような物語です。2015年の初演時も好評でした。今回、カンパニー初の本多劇場に進出するにあたり何をやろうかと思った時、まず浮かんだのがこの作品の再演でした。ただ、初演の評判が良かったからと言って再演でそれをなぞっては意味がない。3年以上の時の中、時代も社会も、初演に参加してくれた役者も僕自身も人生観・芝居観も変わっている。キャストも4人変わっている。これを作品に反映しなければ再演をやる意味がない。試行錯誤を繰り返し、脚本を直し、結末を変えました。
(メディアゴン編集部)お客さんには何を観て欲しいですか?
(大森ヒロシ)初演から続投の坂本さん、山口さん、天宮さん、長峰、伽代子。みなさん素敵で新しい作品創りに力をくれました。新たに参加してくれた芋洗坂係長の存在感、杉本有美のピュアさ、吉川友の勘の良さ、嘉人の必死さ。みなさんそれぞれ素晴らしい役者さんです。初演以上の作品に仕上がっていると自負しています。後は一人でも多くの方にこの作品を観て頂きたい! こんな時代だからこその人情喜劇・・・古き良き人の情。そして何より、その時その場所に行かないと感じられない「生」の空気を是非体感して頂きたいのです。
<以上、インタビュー>
公演の紹介は以下の通り。ぜひ一度、テレビでは味わえない「生(リアル)の熱気」を体感して欲しい。
*大森カンパニープロデュース:人情喜劇シリーズ第8弾『あじさい』(2015年初演作品)リメイク版
作・竹田哲士/大森博、演出・大森博
*出演:坂本あきら・山口良一・天宮良・小浦一優(芋洗坂係長)伽代子・長峰みのり・杉本有美・嘉人・吉川友・大森ヒロシ
*劇場:本多劇場
*日程:2019年2月20日(水)〜24日(日)
この芸人と、演技者と、同じ時代に生きたことを感謝するという対象者が居る。生(リアル)で見られることは貴重だ。古今亭志ん生、森繁久彌、沢村貞子、杉村春子、神田山陽、柄本明、佐藤B作、三木のり平、美空ひばり、古今亭志ん朝、神田山陽、藤山寛美、柳家小さん、つかこうへい、井上ひさし・・・そして、大森カンパニーへ。今こそリアルを見る時だ。
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