<日本の「お笑い」はヌルい>「シン・ゴジラ」こそ日本の政治コメディ?


茂木健一郎[脳科学者]

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日本のメディア状況を見ていて、いちばん残念なことのひとつは、「お笑い」が「ぬるい」ことだろう。特に、政治コメディの伝統がないことは、民主主義国家として、致命的な欠点だということすらできる。

アメリカの例で言えば、「Saturday Night Live」「The Late Show」「The Daily Show」「Last Week Tonight」 など、主なものを上げるだけでこれだけの、その時々のリアルな政治問題をコメディにする番組がある。

ホストが、その時々の政治ネタを風刺する番組に加えて、フィクションとしての政治コメディもある。最近では、女性副大統領を主人公にしたVeepが傑作で、これは現在日本でもhuluで見ることができる。

Veepを制作したのは、 Armando Iannucci。英国で、政治コメディの古典的傑作「Yes, Minister」の現代版として制作された「The Thick of It」があり、その米国版として制作された。

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すぐれた政治コメディは、その時々の政治的対立点のど真ん中を、鋭くつく。なぜそのようなコメディが民主主義に不可欠な装置かと言えば、笑いに必要なメタ認知は状況を客観的に見ることに資するし、ともすれば硬直化しがちな議論をやわらかくしてくれるからである。

日本の、特に地上波テレビにおける「笑い」が、芸人仲間同士の空気の読みあいや、先輩後輩どうしの内輪ネタ、配慮のしあいに終始していることは、日本の民主主義の醸成という視点から言えば致命的な「失われた機会」だろう。テレビはそんなもんじゃないだろう。テレビ関係者の奮起を期待したい。

ところで、今年大ヒットした「シン・ゴジラ」には、ゴジラ登場に対する官僚機構の対応のあたふたぶりに、すぐれた政治コメディの萌芽が見られて、私は注目している。現実のお役所の硬直ぶりを、あのような形で笑いにするのはとても素敵である。

日本にすぐれた世界水準の政治コメディが誕生するとしたら、いろいろしばり、制約があり、またぬるい「お笑い」が主要な商品だと思いこんでいる「文化」のある地上波テレビよりも、「シン・ゴジラ」のような映画においてかもしれない。今後のそのような発展に大いに期待している。

(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)

 

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茂木健一郎

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)脳科学者。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員。1962年10月20日、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程終了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を出て現在に至る。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。