日本国民総意の象徴である「天皇陛下」に基本的人権を差し上げたい

政治経済

保科省吾[コラムニスト]

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「天皇陛下ご一家に基本的人権を差し上げたい」

筆者は虚心坦懐に、ずっと、中学生の頃から、そう思ってきた。

基本的人権とは何か。日本の中学生は次のようなことを学ぶ。

「基本的人権の尊重とは、人間はだれでも生まれながらにもっている。人間らしく生きる権利を大切にしよう」

といった意味だ。その基本的人権には、

  1. 自由権:思想・良心の自由、信教の自由、学問の自由、表現の自由、職業選択の自由など
  2. 平等権 :差別的なあつかいを受けない権利
  3. 社会権:生存権(健康で文化的な最低限度の生活をいとなむ権利)、教育を受ける権利など
  4. 参政権:選挙権、被選挙権など
  5. 請求権:裁判を受ける権利など

などが含まれる。ところが、である。天皇陛下は一部を除きこれらを持っていらっしゃらない。

日本国は、日本国憲法の先頭に置かれた条文として、重要な意義を有する憲法第一条を次のように規定する。

「第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」

天皇を、日本国の象徴として頂く主権者日本国民の総意の、その総意の1億2000万人分の一人として、筆者は「天皇陛下ご一家に基本的人権を差し上げたい」と考えてしまうわけだ。

基本的人権を持っている日本国民総意の象徴が、基本的人権を持っていないというのは矛盾しているのではないか。中学生の頭で、筆者はそう思った。それとも天皇陛下は国旗や国歌や、桜やキジや菊花のようなものなのだろうか。そうではあるまい。

日本国憲法 第11条は次のようにも言う。

「第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」

この規定によれば、日本国民のお一人である天皇陛下も基本的人権を持っていらっしゃることになるが、様々な制限が加えられているのは周知の事実である。

総理大臣も最高裁判所長官も衆参両院議長も東大総長も、皇室の祖神、天照大神を祀る伊勢神宮の大宮司も、筆者がきのう豚肉を買ったスーパーのレジの顔見知りのおばさんも、バスで隣に座った女子大生も、このところ筆者と話し込むことが多いハンディキャップドの青年も、皆持っている基本的人権を天皇陛下は持っていらっしゃらない。

【参考】天皇陛下「退位」を「政争の具」にする安倍首相 – 植草一秀

今上天皇が生前退位のご意向を示されたことで、にわかにクローズアップされた皇室典範の規定問題であるが、20日に始まった通常国会でもこの問題が最大のテーマのひとつだ。これを機会に天皇陛下の基本的人権についても議論が広がることを筆者は望む。

1月19日付けの朝日新聞朝刊で、高橋源一郎さんの記事で若き天皇陛下が次のようにおっしゃっていると知った。

「美智子妃と結婚する直前、皇太子時代に、こんなことを友人にしゃべったと伝えられている。ーーぼくは天皇職業制を実現したい。毎日、朝10時から夕方の6時までは天皇として事務を執る。その後は家庭人としての幸福をつかむんだーー」

伝聞である。確証はない。皇位を継承する浩宮様こと皇太子殿下はどう思っていらっしゃるのだろうか。雅子さまは、秋篠宮さまは、愛子さまは、紀子さまは、眞子さまは、佳子さまは、悠仁さまは、そして美智子さまは。

また、評論家の荻上チキさんは、翌20日の朝日新聞で次のように述べている。

「退位の問題について、安倍晋三首相をはじめ政府・与党側が『静かな環境で議論したい』と言っているが、要はシャンシャンで終わらせたいということだろう。あまりにも政府に都合のいい言い方だ。天皇制をめぐる問題をタブー化することにもつながりかねない。特別扱いせず、他法と同様、公の場でワイワイと議論すべきだ。女性・女系天皇の是非も含めて、天皇制に対する幅広い議論を行う必要がある。陛下の人権を制限して象徴天皇制が成り立っている現状は『あまりにも無慈悲ではないか』という議論もあっていい。天皇制を重んじるがゆえに、たとえばパブリックコメントのようなものを取らないとか、特別な審議の進め方をするのはよくない」

筆者としては、全く同意である。

 

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