<優生思想を誘う生殖医療と生命倫理>遺伝子は引き継げるけど「私は一体誰の子?」

社会・メディア

山口道宏[ジャーナリスト]

日本には生殖医療の基盤は整備されていない。しかし、かつて妹が姉夫婦の子どもを「代理出産」し、また実母が娘夫婦の子どもを「代理出産」していたという事例があった。最近でも、長野県内の病院で体外受精17年間に亘り祖父精子(夫の実父)で110人が誕生していたという報道もあった。

医療の発達は生殖医療を生んだ。不妊症で子どもがほしい夫婦の一部には福音であろうか。しかし、それは人工授精・体外受精から、とうとう非配偶者間の体外受精に及んでいた。「遺伝子は引き継げる」ものの「誰が母」か? 法律上や出自をめぐって賛否は分かれる。
さて、ここにきて2つの「代理出産」をめぐる話題で騒然だ。
いずれもタイ国内でのことで、ビジネス性と生命倫理の視点から論じられる。ひとつはオーストラリア人夫婦の依頼で双子の男女を「代理出産」した代理母(タイ人女性)が「夫婦に引き取られない」ダウン症の男児を手放さなかったというもの。
もうひとつは24歳の日本人男性が「父親」で、同国内で9人の子どもを「代理出産」で誕生させたというもの。後者はその後調べで15人とも16人ともいわれる。
近年、生命(いのち)のはじまり段階で人為的介入がかまびすしい。コウノトリが赤ちゃんを運んでくるとはいわないが、医療の進歩は、新たな「可能性」と新たな「選別」を運んできた。即ち優生思想をも誘うのだ。やがて「私は誰?」と問い掛ける口を誰も封じることはできない。
なぜなら人権、知る権利はどんな形にしろ、この世に生をうけたものにひとしく付与され平等の権利だから。「親のエゴ」をこえる生命倫理はない。(山口道宏[ジャーナリスト]
 
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