貴ノ岩への謝罪なく「正しい行動」と強弁する日馬富士 -植草一秀


植草一秀[経済評論家]

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横綱日馬富士が引退届を提出し、引退会見を行った。極めて意義深い会見になった。「意義深い」という意味は、今回の傷害暴行事件の本質を多くの面で明らかにする会見になったという意味である。

この会見で明らかになった重要論点を三つあげておこう。

第一は、日馬富士も伊勢ヶ濱親方も、2007年の傷害致死事件を反省し、その教訓を全く生かしていないことである。第二は、日馬富士からも伊勢ヶ濱親方からも、貴ノ岩および貴乃花親方に対する謝罪が一切なかったことである。

第三は、日馬富士が暴行を行ったことに対して「正しいことをした」と説明し、その経緯を説明しておきながら、記者からの質問で詳しい経緯を聞かれると「捜査中であると」として、詳しい説明を拒絶したことだ。

完全なる「矛盾」である。この「矛盾」によって会見は完全に崩壊したと言えるだろう。

今回事案の本質は、現役横綱による暴行傷害事件である。被害届が提出され、警察が捜査を進めている、れっきとした刑事事件である。刑事事件の捜査は警察が行う。相撲協会が行うものではない。

貴乃花親方が協会による調査に非協力的で、警察の捜査にすべてを委ねているのは、相撲協会が強い隠蔽体質を有しており、適正な調査が行われる可能性が低いことを踏まえたものであると考えられる。相撲協会は11月2日に警察からの連絡で事件概要を把握しておきながら、問題を公表せず、日馬富士の九州場所出場を認めていた。隠蔽体質を示すこれ以上の証左はない。

この事実を踏まえて貴乃花親方は協会の調査には協力せず、警察捜査にすべてを委ねたのだと考えられる。2007年に相撲協会は暴行傷害致死事件を引き起こしている。その教訓を踏まえれば、「暴力根絶」が根本におかれていなければおかしい。

ところが、今回、日馬富士はカラオケ入力装置という凶器を用いて、頭部裂傷という重傷を負わせた。犯行態様によるが、「殺人未遂」と判断されておかしくない重大な刑事事件である。

日馬富士は自己の行動を正当化し、引退会見でも「正しい行動」と言い放ったが、このことが、2007年の傷害致死事件の教訓をまったく踏まえていないことを明白に物語っている。日馬富士は貴ノ岩の「礼儀・礼節」がなっていないとして、凶器を使った暴行傷害を正当化しているが、「礼儀・礼節」を諭すために暴行傷害を行うことが「礼儀・礼節」に根本的に反する行動である。

事実関係はまだ明らかでないが、これまでに報じられている情報を総合すると、日馬富士が貴ノ岩に呼びかけたが、酒席の騒音のために貴ノ岩には日馬富士の声が聞こえなかった。その際に、貴ノ岩が携帯電話を操作していた。これに激昂して日馬富士が一方的に暴行、傷害に及んだ。

このような事実経過だったのではないか。

現場にいた関係者の中の日馬富士サイドのメンバーが口裏合わせをしている可能性もあるため、捜査でどこまで事実が明らかにされるか不透明であるが、日馬富士が一方的に暴行・傷害を行ったことははっきりしていると見られる。

「礼儀・礼節に反すると判断すれば、暴力を用いてよい」との考え方が、「礼儀・礼節」からもっともかけ離れた暴挙である。日馬富士はこんなことすら理解できていないようであり、これこそ横綱の品格を欠いていることの証左であると言える。

11月29日の会見では、貴ノ岩と貴乃花親方に対する謝罪が一切なかった。伊勢ヶ濱親方は、「どうしてこんなことになったか不思議でしょうがない」と発言したが、横綱が凶器を用いて一方的に暴行・傷害に及び、頭部裂傷の重傷を負わせたのだから、日馬富士の横綱資格剥奪は当然以外の何者でもない。

相撲協会の対応が遅すぎたと言える。また、警察も一般人の暴行傷害事件であれば、当然のことながら逮捕・勾留している事案だろう。逮捕もされず、早々に「書類送検」の情報が流布されていること自体が極めて不当である。

メディアは通常の刑事事件に際して、「厳罰化」と「被害者感情」を徹底的に強調している。ところが、今回刑事事件事案については、「厳罰化」も「被害者感情の尊重」も一切主張しない。完全なるダブルスタンダードである。

貴ノ岩、貴乃花親方サイドは、11月29日の日馬富士および伊勢ヶ濱親方による記者会見で、対応姿勢を一段と硬化させることになるだろう。この会見では当然の結果である。日馬富士はこう述べた。

「この度、貴ノ岩関にケガを負わせた事に関し、横綱として責任を感じ、本日をもち引退する。国民、ファン、相撲協会、講演会、親方、おかみさんに迷惑をかけ、心から深くお詫び申し上げる。」

「先輩横綱として、弟弟子の礼儀と礼節がっていない時に、それを正して、直して、教えてあげるのは先輩の義務。弟弟子を思って叱ったことが彼を傷つけ、世間を騒がせ、相撲ファン、相撲協会、後援会に迷惑をかける事になってしまった。」

「貴ノ岩関にケガを負わせて、心も傷つけていると思う。これから礼儀と礼節を忘れず、ちゃんとした生き方をしてがんばっていただきたい。」

自己正当化のオンパレードで、暴行・傷害に対する「罪の意識」、「謝罪の姿勢」がかけらもない。

さらに、被害者の貴ノ岩に対して上から目線で、

「これから礼儀と礼節を忘れず、ちゃんとした生き方をしてほしい」

と説教までしているのである。開いた口が塞がらないとはこのことを言うのだろう。警察・検察当局は、事案の重大性を正しく認識して、刑事事件として公判請求するべきである。

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植草一秀(うえくさ・かずひで) 1960年、東京生まれ。経済評論家(日本経済論、金融論、経済政策論)。東京大学卒業後、野村総合研究所、大蔵省財政金融研究所研究官、京都大学経済研究所助教授、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、名古屋商科大学客員教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役社長。