「働き方改革」は「働かせ方改悪」だ -植草一秀


植草一秀[経済評論家]

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安倍政権が「働き方改革」と「印象操作」している「働かせ方改悪」を断固阻止しよう。安倍政権が提示している「働かせ改悪」は、

1.長時間残業の合法化

2.正規労働と非正規労働の格差の維持

3.年収1075万円以上の労働者を対象とする残業代ゼロ制度の創設

4.残業代ゼロの裁量労働制度の範囲拡大

を柱とするものである。そのすべてが、資本の側に立つ制度変更である。大資本は労働者を最小の費用で酷使し、使い捨てにすることを目指している。

この大資本の要請に応えて制度を創設しようというのが安倍政権の「働き方改革」であり、その実態は「働かせ方改悪」なのである。安倍政権が「改革」と表現しているのは、安倍政権の立ち位置が大資本の側にあるからだ。

大資本の側から見れば、上記の制度変更は、すべて歓迎するべきものであり、これをプラスの意味を持つ言葉で表現するのは適正なのである。

しかしながら、労働者である国民の側に立って、これらの制度変更を評価するならば、そのすべてが現状を悪化させるものであって「改悪」と表現するほかないものばかりである。

制度変更は、「大資本が大資本の利益拡大のために、労働者をどのように働かせるか」という視点に立って提示されたものであり、この現実を踏まえるならば、安倍政権の提案は「働かせ方改悪」としか表現できないのである。

残業時間に上限を設定して、違反に対しては罰則規定を設けることは正しいが、何よりも問題になるのはどのような上限を設定するのかである。

高速道路で猛烈なスピードで走行する暴走車による重大事故が相次いだとしよう。これらの事故を踏まえて、新たに高速道路の制限速度を設定して、この限度を超えた車を処罰する制度を導入したとしよう。

この法定速度上限を、たとえば80キロに設定するなら、暴走車の発生を抑止する効果を発揮するだろうが、ここで設定する法定速度上限を時速300キロに設定するなら、制度を創設する意味はないことになる。逆に時速300キロまでは合法化されたとして、暴走車が激増することになる可能性が高い。

NHKでも電通でも長時間残業による過労死という痛ましい事例が発生してきた。このような悲惨な事例の再発を防ぐことを目的に制度を設計するなら、安倍政権が提示するような案は出てくるわけがない。安倍政権が提示している新たな法定上限は、月残業時間100時間未満というものである。2~6ヵ月の平均値でも月残業時間80時間を容認するものである。

これらの水準は、これまでの裁判事例でも過労死が認定された水準である。つまり、過労死が生じる長時間残業を合法化するというのが、今回の安倍政権の提案内容なのだ。労働基準法では1日8時間、週に40時間を超える労働時間は原則的に認められていない。

しかしながら、会社と労働者が協定を結ぶことによって、いわば「例外」として残業をさせることが認められているのである。その上限は月45時間、年間360時間である。

したがって、安倍政権が「働き方改革」として、動労者の側に立って、新たに罰則規定のある残業時間の上限を定めるというのであれば、当然のことながら、この、月45時間、年間360時間を法定上限として設定するべきなのだ。

ところが、安倍政権が選択した上限は月100時間である。過労死を合法化する新制度との批判を免れない。他方、安倍政権は裁量労働制を広範に認める制度の導入を目論んでおり、一般労働者の残業時間よりも裁量労働制の労働者の残業時間の方が短いとのデータがあると安倍首相が国会で述べた。ところが、そのようなデータは存在しなかった。

厚生労働省は調査データの処理に恣意的な操作を行い、安倍政権が求める「裁量労働制の労働者の残業時間が一般労働者の残業時間よりも短い」という結果をねつ造したのだと見られている。

厚労相の罷免は免れない巨大不正と言わざるを得ない。過労死を防ぐには、会社を退社してから出社するまでの時間を確保することを義務付ける「インターバル規制」が必要不可欠だ。
EU加盟国はEU労働時間指令の内容を国内法として規定する義務を負っており、EU労働時間指令がEU諸国における共通の基準になっている。そのなかで、休息時間について、24時間につき最低連続11時間の休息時間を求めている。

つまり、1日のなかで休憩時間を含めた拘束時間の上限を13時間としているのだ。月100時間残業は月20日勤務で考えると1日5時間の残業ということになる。9時から6時まで1時間の休憩をはさんで8時間勤務だ。

その後、1時間の休憩をはさんで12時まで働く計算になる。退社から出社まで、通勤時間を含めて9時間しかない。通勤時間が片道1時間であれば、午前1時に帰宅して午前8時に自宅を出る生活が毎日続くことになる。このような生活が過労死を生み出すのである。

労働者の立場に立って制度を構築するなら、最低限、EU並みのインターバル規制を罰則規定付きで導入するしかないが、安倍政権の提案には、これが含まれていない。

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植草一秀(うえくさ・かずひで) 1960年、東京生まれ。経済評論家(日本経済論、金融論、経済政策論)。東京大学卒業後、野村総合研究所、大蔵省財政金融研究所研究官、京都大学経済研究所助教授、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、名古屋商科大学客員教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役社長。