露見した「吉本興業三大疑惑」で進退問題焦点に -植草一秀

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植草一秀[経済評論家]

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日本財政最大の問題は、利権財政支出が巨大であることだ。一般会計、特別会計を合わせた国の財政支出が投融資を除いて約230兆円ある。そのうち、90兆円は国債費、90兆円は社会保障支出だ。社会保障支出の財源の3分の1が国費で残りの大半は保険料収入である。

年金、公的医療保険、介護保険の保険料収入だ。国債費、社会保障関係支出を除いた約50兆円が国の政策支出だ。そのうち、約20兆円は地方交付税交付金として地方自治体に配分される。この50兆円の政府支出に無限の利権支出が含まれている。

財政改革とは、無駄な利権支出を切ることである。このことを、拙著『25%の人が政治を私物化する国』(詩想社新書)に記述した。

吉本興業の企業としてのあり方が問題になっている。発端は、吉本興業所属タレントが反社会勢力のイベントに参加してギャラを受領したことである。問題が発覚した時点で、当該タレントがギャラの受領を否定し、その後に肯定したことで問題が大きくなった。

しかし、当該タレントは7月20日に記者会見して、当初、虚偽を述べたことを謝罪するとともに、問題発覚後、早期に事実を明らかにして謝罪する会見を開催することを吉本興業に強く求めたが、吉本興業によって抑止された事実を明らかにした。

当初、虚偽の説明をしたことは正しくないが、その後に事実関係を明らかにし、謝罪したことで、この件に関する疑惑は相当程度解消した。残される問題は、当該タレントと反社会的勢力との関わりが実際になかったのかどうかの検証である。

仮に、タレントが述べたことが事実で、当該タレントと反社会勢力との関わりがなかったのであれば、この問題に対する対応は変わらざるを得ない。他方で、この問題との関連で新たな重大問題が表面化した。それは、吉本興業という企業の問題である。

重大な問題が三つある。

*第一は、吉本興業の経営最高幹部によるパワハラ行為が存在したとの疑惑である。

*第二は、吉本興業の雇用契約のあり方に関する問題である。

*第三は、本問題の発端となった反社会勢力との関わりに関して、吉本興業自体が反社会勢力との関わりを有していた疑いが浮上したことだ。

本ブログ、メルマガで、この問題を取り上げるのは、吉本興業が単なる一民間企業ではなく、在京、在阪キー局を持つ大手メディア企業の関連会社であり、また、国が巨額の財政資金を投じている事実があるからだ。吉本興業が上場廃止する際、在京、在阪キー局を持つ大手メディア企業、ヤフー、ソフトバンクグループなどが吉本興業の株主=所有者になった。

したがって、吉本興業は大手メディア企業の関連会社になっている。これらの大手メディア企業はすべて上場企業であり、上場企業として、関連会社のガバナンス体制、ならびにコンプライアンス体制について、責任を負っている。その吉本興業が上記の三つの重大問題を抱えているとすれば、その問題をあいまいに処理することは許されない。

また、大規模な国民資金が投入されることに関して、その是非が徹底的に論議される必要がある。当該タレントの記者会見において、問題となったイベントへの参加を応諾した際、ギャラが高額であることに関して、

「亮くんに話を聞いて認識したんですけど。50万、100万だと。そこで亮くんが「大丈夫かと。そんな大金払えるとこは」と入江くんに聞いたみたいで。その時に入江くんが、「僕がやる吉本の会社を通したイベントに付いてくれているスポンサーなんで、そこは安心です」と。そこで亮くんは、「じゃあ大丈夫か」と」

と述べた。発言に示されたイベントは2014年5月31日に開催されたもので、主催者は問題のフロント企業「CARISERA」ではなかったが、「CARISERA」はこのイベントのスポンサーになっていた。

したがって、上記の記者会見での説明は事実と大きく相違していない。吉本興業はこのイベントにタレントを派遣しているが、コンプライアンス上のチェックというのは、タレントを派遣するイベントに反社勢力の資金が入っているかどうかを調べることが基本となる。

タレントの側においてはイベントの性格を十分に調査することが難しいと推察され、上記のような説明を受けてイベント参加を決定したのであれば、その決定の落ち度は相当程度減殺されることになる。第二の下請け契約の問題については、弁護士の郷原信郎氏が詳細な問題指摘をされているので、郷原氏の論考を参照賜りたい。(https://bit.ly/2GprGu7

ヤフーニュースサイトを見ると、吉本興業の大崎会長、岡本社長ならびに両者と極めて近い関係にある松本人志氏を擁護する記事が極めて目立つ。ヤフーは吉本興業出資企業であり、利害関係企業である。このことを明かさずに、ニュースサイトを編成していることに強い疑義が生じる。

上記「CARISERA」については、フジサンケイグループの企業がネット上で社長インタビューを掲載していた。(https://bit.ly/32R1fr8

当該タレントは記者会見で、

「飲んでいるときに、雑誌の名前は言えないですけど「某ビジネス雑誌にも登場している」と聞いていたので、大丈夫かなとなったんだと思います。」

と述べている。当初に嘘をついたことは問題だが、イベントに参加した経緯自体の非を問うことは難しいのではないか。局面は完全に転換した。

社長、会長の進退問題を軸に吉本興業の経営体制をどう刷新するのか、また、国民資金の吉本興業への投入是非が論じられなければならない。

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