木村拓哉『グランメゾン東京』脚本家に漫画原作を書かせたTBSの発明

テレビ

物部尚[エッセイスト]

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漫画を原作とするテレビドラマには、いくつかの批判がある。曰く、テレビドラマにはもうオリジナルを作る気概がないのか、漫画の表現方法(気持ちの表現、擬音など)を真似たら、もうそれは芝居で描くドラマとは呼べない・・・etc。

さて、木村拓哉主演のTBS『グランメゾン東京』は、漫画が原作ではない。だが非常に漫画的なテイストに満ち満ちている。このドラマの制作陣がある発明をしたからではないのか、と筆者は考える。

漫画自体には原作者がいる作品がかなりある。古くは『巨人の星』(原作:梶原一騎、作画:川崎のぼる)『包丁人味平』(原作:牛次郎、漫画:ビッグ錠)、ほかにも『美味しんぼ』(原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ)、『北斗の拳』(原作:武論尊、作画:原哲夫)など。なぜ原作者をつけるか。作画家が絵はうまいがストーリー作りに難があるときに、編集者が組ませるケースが多い。

この作り方に、『グランメゾン東京』のスタッフは気づいたのではないか。もしくは、昔から気づかれていたことではあるが、はっきりと意識して制作にあたったのではないか。この仕組を筆者は発明だと思う。漫画から原作を持ってきて脚色するよりも、テレビドラマのために漫画のようなオリジナルの原作を書いてもらえばいいと気づいたのである。

『グランメゾン東京』の場合はこうなる。脚本・黒岩勉(漫画なら原作)、演出・塚原あゆ子(漫画なら作画)プロデューサー・伊與田英徳(漫画なら編集者)。脚本は、この『グランメゾン東京』を、漫画のようなテレビドラマにしようという意匠に満ち溢れている。

*調理場面の早回し、漫画のようなカット割り

*ドラマにはあまりない、レシピや食材のテロップ表示

*主人公・もとミシュラン二つ星シェフ木村拓哉人物描写の多様な伏線と謎フリ

なぜ、悪漢に追われているのか。なぜ、これほどまでに嫌われるのか。

*美味しいときは、何も言わず上を見るという、木村拓哉のわかりやすいアイコン

*わかりやすい舞台設定。パリと東京

*競争。わかりやすい敵・尾上菊之助(ライバルシェフ)

*わかりやすい悪役・手塚とおる(利益至上主義のライバル店オーナー)

*お金命の悪役・手塚とおるが使う、大阪弁

*よきバディ沢村一樹

*だんだん仲間が集ってくるという映画『勝利への脱出』的構造

*中年だって恋するんだという予感の漂う美魔女的鈴木京香の配役

*多用される鈴木京香の「泣き芝居」

*早い、ストーリー展開。

*視聴者を考えさせない、仲直りの動機。

みごとである。漫画みたい、という筆者の感想は今回の場合、当然褒めているのである。誤解なきよう。

 

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