<ドラマ「若者たち2014」を分析する>かつての「若者たち」から今の「若者たち」に投げられた「未来へのボール」


水戸重之[弁護士/吉本興業(株)監査役/湘南ベルマーレ取締役]

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ドラマの改変期の秋であるが、新ドラマの前に、以前の記事でとりあげたフジテレビ開局55周年記念番組「若者たち2014」を振り返っておきたい。

昭和の雰囲気漂う東京下町の、貧しい5人兄弟の物語。親代わりで過干渉の長男(妻夫木聡)の下、それぞれが異なる困難を抱える中で、正面からぶつかり、悩み、泣く。そんなベタな設定に、視聴者はついて行くのだろうか。「北の国から」の演出家、杉田成道氏が企画し、チーフ演出を務めた。

視聴率は初回が12.5%、最終回は6.1%。平均視聴率は7.71%。残念ながら、初回だけ見て球場を後にした観客は戻ってこなかったようだ。ただ、最終回まで席を立たずに「杉田成道投手」の熱投を見守ったファンも少なからずいる。筆者はその一人として、このドラマを解題してみたい。

まずはこのドラマに関連するトピックの時系列から。

  • 1964年 柴田翔「されどわれらが日々」芥川賞受賞
  • 1966年 フジテレビ「若者たち」放送
  • 1969年 70年安保闘争 東大安田講堂事件
  • 1970年、ロックの女王ジャニス・ジョプリン、27歳で死亡。
  • 1973年 つかこうへい「飛龍伝」初演。
  • 1979年 ジャニス・ジョプリンの伝記的映画「ローズ」公開。
  • 1986年 ロブ・ライナー監督「スタンド・バイ・ミー」公開
  • 1991年 杉田演出「1970ぼくたちの青春」陣内孝則、新米教師まむし役で出演
  • 2003年 杉田演出「幕末純情伝」。「飛龍伝」(広末涼子)と同時上演
  • 2012年 杉田演出「GIVE ME FIVE」 陣内孝則、定年を迎える教師まむし役で出演

「ローズのテーマ」(ベット・ミドラー)と「若者たち」(ブロードサイドフォー)は、舞台「飛龍伝」の中で使われている。

「GIVE ME FIVE!」(以下「GM5」)は、杉田監督が3日間で撮り終えたAKB48のミュージックビデオで、34分のミニドラマとなっている。東京の定時制高校に通う父(平田満)と二人暮らしの貧しい少女(前田敦子)が、貧困と闘いながら、教師の呼びかけで、同じく困難を抱えながら定時制に通う同級生とバンドを結成し、卒業ライブを行うまでのストーリー。

この「GM5」の終盤、卒業式を終えて教室に戻った生徒たちに、この日で自分も定年を迎える担任の教師「まむし」こと陣内孝則が、卒業生に贈る言葉として、柴田翔の小説「されどわれらが日々-」の一節を朗読する。

36年前に初めて担当したクラスの生徒たちにも読んだと言う(このシーン、杉田は「1970ぼくたちの青春」と同じ陣内孝則を起用して、まったく同じ演出をするというイキな仕掛けをしている)。恋人が、主人公の青年と別れて遠くの小さな町の英語の教師になっていく時の、主人公にあてた別れの手紙である。

「あなたは私の青春でした。どんなに苦しく閉ざされた日々であっても、あなたが私の青春でした。私が今あなたを離れていくのは、他の何のためでもない。ただいつかあなたと会うためなのです。」

「若者たち2014」の最終回、陸橋の上で、看護師のひかり(満島ひかり)が不倫相手の新城(吉岡秀隆)に別れを告げるとき、やはり「私が今あなたを離れていくのは・・・」と引用する。ひかりは、

「新城さんにもらった本だから、何度も読み返して、覚えたの」

と言う。

ただ、ひかりのセリフでは「ただあなたと会うためなのです」と、「いつか」が入っていない。実はこちらが原作どおりなのだが、「GM5」ではわかりやすくするために補ったのだろう。一方、ひかりは新城に「いつかどこかであなたに会っても、私はもう振り向かない。」と別れを告げるのであり、原作どおり「いつか」を入れない方がもちろん正しい。人は「さよなら」をいうとき「またいつか」との願いをどこかにもつものだが、別れの重さによって、「いつか」を言葉にすべき時とそうでないときがある。引用だから原文に忠実に、という議論はひとまず置くとして、杉田が「いつか」について演出を変えたことには意味があるように思える。

「GM5」の中で、「まむし」が生徒たちに教室でギターの弾き語りで自作の歌を聞かせる場面がある。「『スタンド・バイ・ミー』のような曲を作ってほしい」との杉田監督の要請で、陣内が作詞作曲した。

♪かりそめの口づけに酔いしれたあの日から 俺たちの旅は始まった♪

前奏は、ギター一本なので、ベン・E・キングのではなく、ジョン・レノンの、シャカシャカシャカシャカっていう、あれです。

映画「スタンド・バイ・ミー」のラストシーンでは、4人の少年が分かれ道でそれぞれの家に散っていく。仲間からの自立と旅たちを象徴するシーンだ。「若者たち2014」のラストでも、兄弟は、東京スカイツリーがみえる荒川の河川敷で、手を振りながらそれぞれの方向へ去っていく。旭、暁、ひかり、そして陽と旦は一緒に、つまりは4方へ、それぞれの道へ。

杉田は、このドラマの最終回で、東大安田講堂事件で、機動隊が学生たちが立てこもる安田講堂に向かって派手に放水する有名な写真を挿入した。実はこの写真、「GM5」の中でも使われている。どちらもストーリーとは関係のない場面で、しかも、説明なしに一瞬だけ映る(「ぼくたちの青春」では学生と機動隊の衝突の映像を入れた)。

杉田は、この写真を、世の中を変えようとして権力に立ち向かう若者たちとその挫折(敗北)とを象徴するものと捉え、それを若者が直面する困難とそれに立ち向かう勇気に重ねているようだ。かつて困難に立ち向かった若者たちへのレクイエム(鎮魂歌)としてこの写真を後世に伝えたいのかもしれない。

このドラマの最終回、行方不明になった香澄(橋本愛)を探す三男・陽(柄本祐)と四男・旦(野村周平)が芝居の稽古場のドアの前までくると、中から、「ローズ」のテーマ曲が聞こえてくる。「飛龍伝」でクライマックスにかかる曲だ。ドアを開けると、中では芝居をやめたはずの香澄が一人で稽古をしていた。

「こんな私のために幾多の若き同志たちが志半ばに倒れたことでしょう。・・・私はあなたが好きです。なぜこんなに好きなのか、自分でもわかりません。」

第4回で、劇中劇「飛龍伝」の中で、主演の橋本愛に代わり、瑛太の前に亡くなった広末涼子が舞台に現れて語ったセリフを、最終回で橋本愛が語り始める。ヒロスエから橋本愛に、バトンは渡された。香澄は高校を辞め、好きな芝居の道を目指す。杉田成道演出、橋本愛主演の舞台「飛龍伝」をぜひ観てみたいところだが、おそらくは杉田はそんな機会はもうないだろう、との思いで、この劇中劇を演出したのだろう。

「若者たち2014」。杉田成道がこれまでの演出家人生の総仕上げとして、後に続くドラマ人や役者たちに伝えたかったことがぎっしり詰まったドラマであることは間違いない。

 

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水戸重之

水戸重之(みと・しげゆき)弁護士として、映画、音楽、放送、芸能界、スポーツ関連の仕事を25年にわたって続けている。吉本興業(株)監査役、湘南ベルマーレ取締役。早稲田、慶応、筑波の各大学で教壇に立つ。日本人メジャーリーガーの日本側代理人を務める(石井一久、高津臣吾、齋籐隆、福留康介、黒田博樹、川上憲伸、青木宣親、田澤純一他)