<決定版・欽ちゃんインタビュー>萩本欽一の財産(23)「スターはコント55号ではなく久米宏だ」その3

エンタメ・芸能

高橋秀樹[放送作家]
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久米さんの人気は目論見通り瞬く間に駆け上って行った。久米さんの隠れていたた実力と、『ぴったしカン☆カン』の面白さが相乗効果を産んだからに他ならない。久米さんは『ザ・ベストテン』にも登場しスターの地位を確固たるものにした。
あまりに、久米さんが忙しくなったので、オーディションの司会用に大学のアナウンス研究会所属の人を採用した。今はフジテレビの川端健嗣、やはりフジテレビ『とくダネ』の笠井信輔、元・日本テレビの小倉淳らである。
一方で、バラエティの司会を務める久米さんには野望があった。報道番組の「司会者」になることである。
しかし、TBSの報道局には意固地なところがあって、バラエティの司会者などにニュースは読ませられないという硬い訳のわからない信念があった。TBSにいたのでは希望はかなわない。久米さんは、横山やすしさんとのコンビで『TV スクランブル(日本テレビ)』を成功させ、誰もが驚いた移籍で『ニュース・ステーション(テレビ朝日)』を花開かせた。TBSの手から久米宏という名の大魚がするりと逃げていった。
『ぴったしカン☆カン』は、オン・ザ・ジョブ・トレーニングをするには絶好の番組だった。新人のデイレクターがたくさんの事を学んでここから他の番組に巣立っていった。大将(萩原欽一)が話し始める。

「“無駄なこと”と“余計なこと”ってどこが違うと思う?」

「“無駄なこと”は、骨折り損のくたびれ儲けで、“余計なこと”はやると人が嫌がること」

「どっちが好き?」

「できれば、骨折り損のくたびれ儲けのほうを」

「テレビ局はね、“余計なこと”ばっかりやって、“無駄なこと”は。やりたがらないんだよ。『ぴったしカン☆カン』は、ゲストの取材時間が長かったでしょ」

「ハイ、1センチ近い厚さの質問集があって、それ全部聞くと、最低2時間は、かかりました」

「芳村真理さんに言われたことがあるの。『ぴったしカン☆カン』の取材は長すぎるって、番組でやる分だけの質問が出来あがれば、それで終わりにすればいいのにって」
「でも、やめなかったでしょ、スタッフは?」

「ハイ、やめたらその後にもっと面白いエピソードが出てきたらどうしようって思ってましたから」

「それが“無駄なこと”だなあ、『骨折り(損とくたびれがない)儲け』になることがあるから」
「芳村さんだって言ってた。あんだけ長い時間準備にかけるからおもしろいのよねえって」
「2時間の取材時間をくれるなんていうタレントさんは最近はあまりいないです。15分でいいだろうって。これ。取材をしないでやっていた『笑っていいとも』の悪影響です。僕、中森明菜さんの取材をしたことがあります。明菜さんは気分屋で、へそをまげると手が付けられません。取材もあんまり長いのはどうも…って、マネジャーが言うんです。明菜さんが取材はもうあきたって思ったら隣に座っているマネジャーの腰をトントンと叩くので、それが合図ですから。取材を終了して下さいって。でも、取材を始めたら、そんあ心配は全くなくて、ねえこの話で大丈夫かしらって明菜さんの方から聞くくらいで、やっぱり番組の力だなあって思いました」
「本番前の僕の楽屋にも明菜のマネージャーが来ておなじ様なことを僕に言ったよ。でも本番は、はじけてて面白かったねえ、心配なし」

ゲストは大将には秘密のはずなのに、ルール破りをするほど明菜さんのことが心配だったんだろう。ちなみに、芸能人が気分屋なのは僕は、あたりまえだと思う方だ。

僕「三浦友和さんも取材しました。山口百恵さんと結婚したばかりで、最初に無人島に何か一つだけ持っていくとしたら何を持って行きますかって聞いたんです。そしたら三浦さんちょっとだけ考えて『山口百恵』って、周りにお付きのマネジャーが数人いたから、余計な横槍が入っちゃ嫌だから、すぐに三浦さんに、これ絶対問題にしますから、使っていいですよね、って言質をとった。本人がOKなら、周りはなにも言えない」

「そうそう、そういうマネジャーが余計な気を回したりすること、それが“余計なこと”だ」

僕「“余計なこと”もっと教えて下さい」

「何か、おいしいものをリポートするでしょう、その時スタジオにもの、たとえば、ケーキがあるのはいい。でもタレントがスタジオでケーキを食べるのは“余計なこと”なぜなら、美味しいのはもう伝えてあるから」
「本番前の秒読み、あれも“余計なこと”5,4,3,2,なんてでかい声で言ったらお客さんが緊張しちゃうでしょ。緊張しちゃうと人は笑わない」
「進行をきちんと出来るようにするためのリハーサル。これも“余計なこと”やんなきゃいけないのは、本番でどうすればいいかを考えるリハーサル」

僕「松居直美ちゃんに20回ダメ出しをしたことがありました」

「ああ、あったねえ」

 
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