<クモ糸の研究で鶴岡から世界へ>進学校の校長が教える企業スピリット

政治経済

佐竹俊明(山形県立山形東高校・校長)

 
山形県の北西部に、日本海に面した鶴岡市があります。2005年の市町村合併により、現在の人口は約13万人で、県内の市町村では第2位となり、市の面積は東北地方で最も広いまちです。合併前の人口は、10万足らずのまちでした。
その鶴岡市に、世界が注目する小さな企業があります。以下、山形東高校ホームページからの抜粋から紹介したいと思います。

5月18日(日)には、山形県と山形県教育委員会主催の「未来を拓く若者のための起業チャレンジ講演会」が、本校講堂でありました。講師は、世界最先端のバイオ研究に取り組む「慶応義塾大学先端生命研究所」の冨田勝所長と、人工合成クモ糸の開発で注目されている「スパイバー株式会社」の関山和秀社長の2人でした。この講演会は、スパイバーの関山社長の話を県内の高校生にぜひ聞かせたいという本校卒業生の熱い想いから実現したものでした。
その卒業生は90歳になる方で、私もよく知っている方ですが、社長だけでなく、恩師にあたる冨田所長にも来ていただくことになりました。さらに、その卒業生は県や県教委にも働きかけ、県及び県教委主催の事業となり、本校の講堂を会場としてお貸しすることになりました。当日は日曜日でしたが、市内の高校からも多くの生徒さんが来てくれただけでなく、保護者や一般の方も来てくださいました。
冨田社長は、大学から鶴岡に新しい研究所を作るという指令があった時に、周りの声は「一軍は東京にいる」という冷ややかな反応だったことを紹介し、自分では「世界が鶴岡に振り向くような町にしよう」という想いで鶴岡に来たと語ってくださいました。そして現在では「鶴岡に世界最高の技術がある」とも言われるようになりました。最後に、今の日本は財政破たんの状態にあるが、「日本を立て直すのは君たちの世代だ」と高校生への期待を話されました。
関山社長は、高校生の頃はあまり勉強しない生徒だったそうですが、冨田先生の話を聞いてから、大学では絶対彼のもとで学びたいと思い、その時から必死で勉強するようになったそうです。合成クモ糸の研究を始めたきっかけは「世界一強い虫は?」と仲間と飲みながら話したことで、いろんなクモの糸の話を、映像を用いてお話してくださいました。
関山社長はあるインタビューで「ライバルは?」と聞かれ「アメリカ軍とNASA」と答えて笑われたそうですが、このクモ糸がいろんな分野で実用化されれば、本当に両者がライバルとなる日が来るかもしれません。
この合成クモ糸の強度は鉄鋼の4倍、伸縮性はナイロンを上回り、耐熱性は300度を超えることから、実用化されれば、自動車部品や人工血管など様々な分野での応用が期待されています。関山社長は31歳の若者で、スパイバーも決して大きな企業ではありませんが、地元鶴岡市だけでなく、山形県も県を挙げた支援体制を構築していくことになりました。
関山社長によると、海外企業からも問い合わせがあるとのことで、「鶴岡を素材開発の一大研究開発拠点に」という関山社長の夢も実現する日が近いのかもしれません。
 

【あわせて読みたい】