フランス旅行擁護する者を記録
植草一秀[経済評論家]
***
自民党女性局の議員らによるフランス研修についての論議がかまびすしい。
議員が海外で研修を行うことには意義があるとの擁護論が唱えられる一方、費用の財源に国民の血税が投下されていることを踏まえて、主権者である国民に対する配慮の欠如を批判する声も強い。こうした論議で注目しておくべき点は、この論議に関する賛否が、そのまま自民党や現政権に対する擁護と批判の立場と重なること。
各発言者はこのことを念頭に置いて発言していると考えられる。メディアが発言を取り上げる人物が固定化されている感が強い。そのなかで、常に自民党、あるいは岸田政権を擁護する方向の発言を示す者と批判的な見地からの発言を示す者がくっきりと分かれる点に留意が必要だ。
インターネットメディアを含めて主要メディアは自民党ならびに岸田内閣を擁護する側の発言を多く流布する傾向を有する。自民党と政権を擁護する側の発言を示す者の起用が際立つ。芸能関係者でも所属する事務所が自民党や政権与党、あるいは維新などと強い癒着関係を有している例が多く存在する。これらの事務所は所属タレントに対して発言の方向性を指導・誘導している場合も多いだろう。
客観的に見れば観光旅行の乗りで海外訪問を楽しむ姿をSNSで発信する姿は、岸田文雄氏の子息である岸田翔太郎氏が首相公邸での親族大忘年会で公私混同のドンチャン騒ぎを演じた姿とだぶる。このような醜態を誰がどのように擁護しているのかを冷静に記録しておくことが重要だ。
政治とは何を目的とするものか。政治に求められるのは何か。こうした根本問題と直結する話だ。
政治は主権者である国民のためのもの。主権者である国民が自らの代表者を国会に送り込み、主権者に代わって政治が行われる。代表者は上に立つ者ではなく、主権者の代わりに政治活動を行う者で、主権者である国民に対する奉仕者である。
ところが、現実には与党の国会議員を中心に、国会議員を特権階級であると勘違いして、その特権を得ることを目的に国会議員を目指す例が蔓延している。そのような国会議員など存在意義がない。
不要である。
主権者である国民のための国会議員ではなく、法外な特権を獲得できる、個人に利権を付与する職業として国会議員が選好されているという本末転倒が観察されている。本末転倒を是正するために何が必要か。
三つの制度変更を断行するべきだ。第一は議員報酬を大幅に引き下げること。第二は企業団体献金を全面禁止すること。第三は政治資金規正法第21条の2の第2項を削除すること。
日本の議員の報酬が高すぎる。
議員の基本報酬である歳費および期末手当が年間で2200万円程度になる。文書通信交通滞在費が年間で1200万円。立法事務費が780万円。これ以外にJR特殊乗車券、国内定期航空券、さらに政党交付金を原資とする政党からの資金配分がある。合計すれば5000万円から6000万円の水準に達する。英国の国会議員の報酬は為替レートが円安に振れているため円換算額が拡大傾向を示しているが、それでも日本の4分の1程度の水準だ。
政党交付金制度を創設する際に企業団体献金の廃止が検討されたが、結局、企業団体献金が認められている。大企業が巨額の政治献金を行い、政府・与党が大企業に巨大な補助金を投下する。合法的汚職の構造が構築されている。
政治資金規正法第21条の2の第2項は、政党から議員個人への寄付を認めている。巨額の資金が政党から議員個人に寄付され、その使途が一切公開されていない。飲食に使おうが、蓄財に回そうが、すべてが容認され、資金使途も明らかにされない。野党の一部もこの制度を利用して法外な資金が流用されている。
1年を通じて勤務した給与所得労働者の55%は年収400万円以下。20%を超える労働者が年収200万円以下である。
国民が生活苦にあえぐ中で血税が投下されている政党からの資金支援による観光旅行ではしゃいでいる姿を嬉々として情報発信することが適正でないことは常識的感覚を持つ者なら誰しもが抱く感想である。
【あわせて読みたい】