米ワールドシリーズで故ロビン・ウィリアムズの子供たちが始球式
水戸重之[弁護士/吉本興業(株)監査役/湘南ベルマーレ取締役]
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今年の秋は、筆者が代理人をしている野球選手がアメリカ・メジャーリーグ(MLB)の優勝決定戦である「ワールドシリーズ」に出場することになったので、サンフランシスコに行ってきた。
サンフランシスコ・ジャイアンツ対カンザスシティ・ロイヤルズの対戦となった今年の野球世界一決定戦。会場は、スタンドから海が臨めるAT&Tスタジアム。かつてバリー・ボンズが場外ホームランをたびたび海に放り込み、「スプラッシュ・ヒット」と呼ばれた場所だ。
これをキャッチしようとファンが海上にボートで繰り出し、グローブ片手に待つのが風物詩となった。実際はボンズのような大ホームランはなかなか出ないのだが、それでも今回も多数のボートが繰り出して、お祭り騒ぎをしていた。
アメリカのビッグイベントではセレブリティ(有名人)の登場はお約束だが、サンフランシスコでの3連戦のオープニング・セレモニーも、第1戦は「ヒューイ・ルイス&ザ・ニューズ」が登場、第2戦は「カルロス・サンタナ」が登場し、演奏で会場を盛り上げた。
極めつけは、第3戦のオープニング。オーロラビジョンに、名優「ロビン・ウィリアムズ」の出演映画の映像が流れた後、彼の3人の子供たちが始球式のマウンドに向かった。
ロビン・ウィリアムズは、今年の8月11日、アルコール依存症と鬱病に苦しんだ人生に自ら終止符を打った。まだ63歳だった。映画を通じて人々に愛と勇気を与え続けた彼は、サンフランシスコ在住で、もちろんSFジャイアンツの大ファン。2010年のWシリーズの際のマイク・パフォーマンスの映像も流される。
子供の一人(長男だろうか)が投げたボールを受けたキャッチャーは、ロビン・ウィリアムズの長年の友人だった俳優のビリー・クリスタルだった。この夏、8月26日のエミー賞授賞式で、ビリー・クリスタルはその2週間前に亡くなったロビン・ウィリアムズために追悼のスピーチをしている。
そこで彼は野球にまつわる2人の思い出を語った。それは1989年のシンシナティ・レッズとニューヨーク・メッツの試合で二人がゲスト解説者になった時のこと。ビリー曰く、そこがニューヨーク・メッツのホームのシェイ・スタジアムで、となりには元メッツの名選手がいたにもかかわらず、「『どこのチームが好き?』と聞いたら『サンフランシスコ!』と答えたんだ(笑)」。
15年後に、自分が愛したこのスタジアムで自分自身のセレモニーを天国から見ることになるとは、思いもしなかっただろう。筋書のある世界から来た人たちが見せた人生のドラマ。人生には筋書があるのだろうか、ないのだろうか。
この日、バムガーナー投手が完封でシリーズ2勝目をあげて優勝に大手をかけ、地元ファンを熱狂させた。バムガーナーは最終戦(第7戦)でも5回から試合終了まで5イニングを投げるロングリリーフでヒット2本の無失点と、ロイヤルズ打線を完璧に抑え、シリーズMVPを獲得した。
SFジャイアンツは、5年間で3回目の世界一となったことになる。一方、ロイヤルズの外野手、わが青木宣親は、試合後のインタビュー中、言葉をつまらせ悔し涙を流したが、翌日のスタジアム・セレモニーには笑顔で現れ、地元ファンに向かって「ユー、ザ・ベスト!」(カンザスのファン、最高だぜ!)と叫び、大歓声を浴びた。
アメリカ(とカナダの一部)でしかやっていないのに、ワールド・シリーズもないものだ、と昔は思ったものだが、ワールド・シリーズは、野球のレベルだけでなく、歴史と伝統、球場外のドラマも含めて、やはり世界一決定戦と呼ばれるにふさわしいお祭りなのである。
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