<なぜ誰も気づかない?>正月早々のテレビ番組で信じられない放送事故

両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
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テレビにミスはつきものです。筆者がディレクターとして初めてやらかしたミスは典型的なテロップミスでした。
スーパーテロップで1億を「1000000000」と表記したのですが、放送直後に一人の視聴者からお電話をいただき、「0が一個多かったですよ」と指摘されました。あわてて見直してみると、たしかに0がひとつ多く10億になっておりました。
家庭用録画機などまったく普及していない時代に、カンマなしの「1000000000」という5秒ほどのスーパーテロップを視て0が一個多いと見破ったのですからこの視聴者の方はスゴイと感心してしまいました。
テロップはディレクターが発注します。発注原稿はディレクターかADが書き、これをテロップ担当者に渡します。現在はすべて電子化されていますが、当時は写植で担当者がテロップカードに紙焼きしていました。
これをADがチェックして受け取り、ディレクターが再チェックします。これを収録時にスタジオ用のテロップ送出担当者に渡し、スタジオでもタイムキーパーとディレクターがもう一度チェックします。
リハーサルや本番時にはプロデューサーはもちろんテクニカルディレクターをはじめとする技術スタッフもテロップを確認しています。それでも間違いは起きてしまいます。この時も「1000000000」と「100000000」の区別は誰一人つかなかったのでした。
各局ではこうしたミスを無くすためにさまざま工夫をしています。局によっては生の情報番組のテロップは発注段階からチェック専門のスタッフ(番組制作経験者やOBなど)を置いたりしてしています。それでも「びっくりぽん!」のミスは起きてしまいます。
1月3日の『情熱大陸』(TBS)は国境なき医師団の一員としてタンザニアの難民キャンプで活躍する女性看護師が主人公でした。この番組の冒頭ナレーションには「びっくりぽん!」でした。

「ニッポンからおよそ12万キロ、難民キャンプは国境に近いニャルグスにある」

この放送を視た少なからぬ方がびっくりされたに違いありません。申し上げるまでもなく「地球一周はおよそ4万キロ」ですから、「日本・タンザニア間が12万キロ」というのはあんまりです。ミスは起きるものですが、これほどの間違いに誰も気づかなかったというのは驚きです。
テレビ番組制作には多くの工程があります。『情熱大陸』のようなドキュメンタリー番組の仕上げ工程では、編集済みの映像を視て放送作家がナレーション原稿を書き、これをナレーターが読み録音して行きます。
この「ナレ録り」では一般に制作会社と局のプロデューサー、ディレクター、AD、録音技術スタッフ2~3名が作業にあたります。「ナレ録り」が終わると、これを聴きながら音楽担当者や効果音の担当者がそれぞれの音をつけて整音して完成です。
ここまででも10人ほどのスタッフが何度もこのナレーションを聴いています。さらに完成後は検収チェックを兼ねた局関係者の試写、スポンサーや代理店などの試写などがあってようやくOAにこぎ着けます。
おそらくは数十人が放送前にこのナレーションを聴いているはずです。しかしながら「12万キロ」というミスは奇跡のように多くの人の耳をすり抜けて視聴者の耳に届いてしまったのでした。
正月早々もうひとつ、「これは珍しい!」と思われる珍事を目撃しました。
1月7日のテレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』の「玉川徹のそもそも総研」というコーナーの冒頭で、話を進行するベースとなる大パネルの中心にあるタイトル部分をめくったところ、なんと前週放送した回のタイトルが出てきてしまったのです。
この大パネル、いろいろなことがびっしりと書き込まれているのですが、このタイトル部分以外はすべて正しく今週のネタについて書いてあります。なぜか中心のタイトル部分だけが先週のままだったというミスでした。
最近、大きなパネルを使ってスタジオ展開する情報番組が増えています。時折、誤字脱字の類いを見かけることはあるのですが、隠されているタイトル部分をめくってみたらその下にあった文字が先週のままだったなどというミスは長年ギョーカイにいても聞いたことがありません。
おそらくはパネル制作を担当する美術さんが書き忘れたままOAまで誰もチェックしなかったのだろうと想像しますが、ミスの珍しさにはまさに「びっくりぽん!」でした。
正月早々かなり珍しいふたつのミスに出会ってしまったのですが、いずれもこのミスによって被害を被る人が出るわけでもないでしょうからことさら深刻に考える必要もないのですが、やはり気を引き締めなければなりません。
こうした類いのミスは結局のところ機械ではなく人間が防ぐしか手がありません。どこかが緩んでいることでミスがおき、万が一にも人を傷つけるようなミスや誤報につながったり、どこやらが介入してくるようなことにでもなったら「びっくりぽん!」などと言ってはいられません。
年始早々の「びっくりぽん!」が今年1年への戒めミスでありますよう。
 
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