<続・生きてやろうじゃないの!>東日本大震災と被災者家族の記録(7)1時間のドキュメンタリー番組になった我が家の記録
武澤忠[日本テレビ・チーフディレクター]
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翌日、母を伴い再び母が育った新地町へ。5月に来た時、瓦礫に埋め尽くされていた大地には、今は雑草が生い茂っていた。
まばゆく輝く緑に目を細め、母はつぶやく。
「雑草は踏まれても踏まれても立ち上がる。それが雑草の運命・・・人間だって立ち上がらなきゃね。」
久しぶりに聞いた母の前向きな言葉に、カメラを回しながら思わず涙があふれそうになった。そしてその日の母の日記にはこう書かれている。
「おーい、雲よ・・・あの日の雲ではないだろうけど、あの日の私でもないんだよ。あれから・・・しっかり、生きてきたんだよ。塩水にも負けずに雑草が生き延びた。虫も生きている。ならば、人も生きなければ・・・」
震災から1年。撮り続けた我が家の1年間の記録は、1時間のドキュメンタリー番組になった。
「リアル×ワールド ディレクター被災地へ帰る 母と僕の震災365日」(2012年3月放送・番組審議委員会推薦作品・平成24年度文化庁芸術祭参加)
テレビディレクターである息子が、震災で被災した母を撮り続けながら「家族とは何か」を自らに問いかけるセルフドキュメンタリー。原発による風評被害や親との確執など、すべてをさらけだしてつくった。
この番組は、こんなナレーションで始まる。
「これは震災のドキュメンタリーではない。震災でも壊れなかった、家族の絆の物語」
そして番組の最後は、母のこんな言葉で終わる。
「生きなきゃいけない運命なら生きなきゃね。だけど生きるってことは、辛いこともあるよ・・・死んだ方が楽だと思うこともあった。でも、いま、生きる方向へ向かうのよ。生きてやろうじゃないの!」
ある種、極めて特殊なこのドキュメンタリーは大きな反響をよんだが、中でも注目されたのが番組で引用した母・順子の「震災日記」だった。誰に読ますためでもなく、赤裸々に綴られた78歳の被災者の心情が、多くの視聴者の共感を呼び、やがて出版社から書籍化の依頼がくる。
そして2012年7月、「生きてやろうじゃないの!79歳 母と息子の震災日記」(武澤順子・忠、青志社)が上梓された。
(※本記事は全10回の連続掲載です)
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