TPPを推進する安倍政権支援は「馬鹿主権者」だけだ -植草一秀


植草一秀[経済評論家]

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米国を除くTPP交渉参加11ヵ国が閣僚級レベルで大筋合意したことが公表された。ただし、首脳レベルでの大筋合意はカナダが同意しておらず、宙に浮いている。

米国が離脱したことで消滅することが期待されたTPPがゾンビのように復活しつつある。このTPPゾンビ復活を強行してきたのが日本政府であることを、私たちは認識しておかねばならない。安倍政権がTPP推進に突き進んでいる理由は、この政権が、主権者国民の利益ではなく、世界支配を目論む巨大資本勢力=ハゲタカ軍団の手先として行動しているからである。

ハゲタカ軍団は安倍政権の行動を高く評価しているが、そのことは、取りも直さず、日本の主権者の利益が損なわれていることを意味している。

『国民ファースト』ではない『ハゲタカファースト』。これが安倍政治の本質である。

TPPで2012年12月の総選挙に際して、安倍自民党が「国の主権を損なうISD条項に同意しない」ことを政権公約に明記した。ISD条項は投資家が期待した利益を得られないときに、国に対して損害賠償を請求し、その判断を世銀傘下の裁定機関に委ねるというものだ。

その際、もっとも重大な問題になるのは、日本の外の裁定機関が最終的な決定権を持つことになる点だ。つまり、日本の裁判所が日本国内の問題について、法的判断を下す権限を失うことになる。 司法主権が奪われる。

世銀傘下の裁定機関の決定に主たる影響を与えると見られるのは、グローバルな活動を展開する巨大資本=ハゲタカ勢力である。TPPにISD条項を盛り込むことは、国家主権の上にハゲタカの意思を君臨させることである。

だからこそ、安倍自民党は2012年12月総選挙に際して、「国の主権を損なうISD条項に合意しない」と明記したのだ。ところが、安倍政権はISD条項を排除するのではなく、ISD条項を盛り込むことを積極推進しているのだ。主権者に選挙の際に約束したことと正反対の行動を示している。

そもそもISD条項は、法体系が整備されていない途上国に投資をする際に、投資者の利益を守るために考案されたものである。法体系が不備であるために生じる不利益をカバーするためものである。

つまり、法体系が整備された国の問題は、当然のことながら、その国の法制度に従うべきものだ。日本で問題が生じるなら、日本の法体系で処理をすればよいのであり、それが主権国家としての当然の対応である。

ところが、安倍政権は日本で生じる問題についても、これを世銀傘下の裁定機関に委ねることを積極推進している。国家主権を放棄してまでISD条項を採用しようとしているのは、日本政府が日本国民の利益ではなく、巨大資本=ハゲタカの利益を優先するからである。それ以外に、この歪んだ行動を説明し得る理由を見つけることはできない。

TPPによって実現しようとしているすべての事項は、すべてが巨大資本=ハゲタカの利益を極大化させるためのものである。このことは、取りも直さず、日本の主権者国民の利益が損なわれることを意味する。

食の安全、安心の問題。日本農業と食糧自給の問題。国民医療制度の問題。労働規制撤廃の問題。

これらのすべての側面で重大な制度変更が進められているが、そのすべてが、主権者国民の利益ではなく、ハゲタカ巨大資本の利益極大化を目指すための制度変更なのだ。日本のマスメディアがTPPを積極推進しているのは、日本のマスメディアが巨大資本に支配されているからである。

日本の主権者は、そのからくりに気付かねばならない。米国や豪州産の牛肉が安く入手できることで、これを歓迎してしまうことは根本的に間違っている。そして、ISD条項で日本が国家の司法主権を失うことを軽く考えるべきでない。

TPPによって推進される制度改変は主権者国民の利益を拡大するどころか、主権者国民の利益を破壊するものであることを正確に認識する必要があるのだ。

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植草一秀(うえくさ・かずひで) 1960年、東京生まれ。経済評論家(日本経済論、金融論、経済政策論)。東京大学卒業後、野村総合研究所、大蔵省財政金融研究所研究官、京都大学経済研究所助教授、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、名古屋商科大学客員教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役社長。