<実態はただの無賃労働のことも?>学生の「不安と熱意」を悪用したインターンシップに注意

社会・メディア

藤本貴之[東洋大学 准教授・博士(学術)]
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大学生が一定期間、企業や組織、あるいは仕事の現場で「就業体験」をすることを目的とした「インターンシップ」。
大学の正規のカリキュラムとして作られ、運用されていることも珍しくない。大学生が社会に出る前に、就業体験を持つことは重要であり、もちろん、企業にとっても、大学の中だけで4年間を完結させてしまっている学生よりは、経験値を育んでいるという意味では魅力的かもしれない。
「効果・能力の未知数な大学生」を仕事の現場に迎え入れる、という一種の「リスク」を企業などが負いつつ、学生に就業体験を提供する。その意味では、インターン制度は企業などにとっては、社会貢献・教育貢献活動の一面もある。
しかし、その反面で「インターンシップ=就業体験」という言葉を巧みに利用した狡猾な「労働力搾取ではないか?」と思われる事例を耳にすることが増えた。
例えば、筆者の知っている学生は、インターンを募集している企業に応募し、採用され、就業体験を始めたが、その作業は「ひたすら商品の袋詰め」というものだった。その学生と同じ様なインターンが数名が、パートの中年女性たちに混じっての作業である。完全なライン業務で一日が終わる。
もちろん、そういった作業も経験という意味では重要であろうし、「これこそが労働の現実である」ということを理解するために不可欠なのかもしれない。しかし、インターン期間のほとんどがそのような「ライン業務」に終止していることに、学生自身は不満と疑問を持ったそうだ。
同じ時間、同じ作業をしているパートには給料が支払われ、インターンたちは無賃。その学生は「同じ現場でアルバイトをした方がお金ももらえてよかった」と思っても当然だろう。
最近聞いた話では、「3ヶ月間インターンを続け、その間に業務ノルマが達成できれば、他の学生とは別枠で『社長面接』を受ける権利が与えられる」というもの。「採用を確約」する分けではなく、あくまでも「社長面接をできる権利」に過ぎない。もちろん、その間はその学生は「就職活動」はできないので、選択肢も狭まる。「就職したい」という大学生の「不安と熱意」を悪用しているとしか思えない。
「学生に就業体験をさせてあげる」という名目の元、「無賃(低賃金)労働力のプール」にしているのでわ?と思われる実態もある。インターン先を学生に紹介し「無償で就業」させるが、インターン先からは紹介業者に「利用料」が支払われているようなビジネスもある。
あたかも学生の社会活動支援組織であるかのごときニュアンスを漂わせつつ、インターンの紹介やマッチングなどを業務とする「株式会社」の存在は懐疑的にならざるを得ない。就業体験をさせることを名目とした「無賃労働」を活用しただけの人材派遣業ではないのか、と。
労働法上、「本格的な業務」に従事しているような場合や、企業からの指揮命令を受けている使用従属関係がある場合は、労働者として扱われなければならないが、インターンに参加するような学生は皆真面目で、必然的に「派遣先」での任務を正社員の如くがんばろうとする人は少なくない。そのような学生の「善意と熱意」は簡単に悪用されてしまう。
もちろん、多くのインターンシップを実施している企業や団体が善意的なものであり、リスクを負った社会貢献だ。大学生の社会体験、就業体験は今後、益々拡大してゆく分野だろう。
だからこそ、熱意ある学生たちには「インターンシップのビジネス利用」の存在に冷静な視線を持ってほしい。
 
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