「情報はタダ」がニュースを劣化させる

社会・メディア

メディアゴン編集部

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ニュースが劣化している。

ネットニュースだけではない。既存メディアのニュースもである。近年、とくに気になるのは、週刊文春や週刊新潮のようないわゆる「砲系メディア」以外のほとんどの既存メディアが、ネットコンテンツやテレビ番組の切り抜きのテキスト化を濫用しているということだ。

テレビ番組(しかもたいしたことのないバラエティ番組)やネット動画で「誰それがこういった」「それに対してSNSが炎上している」・・・等々といったものである。もちろん、テレビのバラエティやネット動画を見ていない人にとっては、そこでの出来事を「信頼ある慣れ親しんだメディア」が報じてくれることで、初めてその情報を知る、という人もいるだろう。

とはいえ、すでに放送されたテレビ番組やネット動画を後追いで切り抜いて報じることになんの価値があるのだろうか。記者やジャーナリストたちは自分の手と足で一次情報を集めるということの重要性を忘れているのか。しかも、新聞などはそもそも情報が遅く、前日以前に発生した誰もが知っている情報を「翌日以降の新聞で確認」といった程度の立ち位置にまで没落している。

また、それら既存メディアも、最大の発信先はネット媒体である。ネットコンテンツの内容を既存メディアが切り抜きで報じて、それをネット媒体で発信する・・・。1つの情報がネットを介して堂々巡りをしているだけで、一体主体はどこにあるのか理解に苦しむものも多い。

特に、著名人のSNSの書き込みなどを取り上げてニュースに仕立て上げているケースなどはひどい。所詮、タダで情報を得ている読者なのだから、発信する方もできるだけコストをかけずに「焼き直し」「切り抜き」で量産・対応している・・・ということなのかもしれない。

[参考]<ジャニーズ性加害問題>国連作業部会の救済要求に松野官房長官はスルー

私たち日本人にとって、「情報はタダ」という思い込みは強い。タダだからこそ「安かろう、不味かろう」の原理で、消費者の情報への視線も極め甘い。もちろん、作り手も甘い。タダ情報にはもちろん、テレビも入る。日本のテレビ番組がつまらなくなった理由も「情報はタダ」と受け手・作り手の双方が思い込んでいるからに他ならない。

アメリカなどに行くとわかるが、大量のチャンネルがあるものの基本、結構なコストがかかる有料サービスである。もちろん、無料で視聴する抜け道がないわけではないが、長くケーブルテレビにお金を支払って契約してきたという経緯もあり、良質なコンテンツは原則として有料という意識は根強い。これは視聴者だけではなく、作り手もそうだろう。良質な有料コンテンツを作成し、売る。それを消費者が購入している、という関係なのだ。

日本に蔓延する「情報はタダ」がニュースを劣化させ、メディアをクオリティを下げていないか。かつて、牛丼チェーンが値下げ競争を激化させた結果、自殺行為的な消耗戦へと追い込まれたことがあったが、同じような劣化構造を感じる。

「情報は有料」ということをメディア自身が打ち出してゆく時期に来ているのではないか。そうすれば、作り手だって、「タダで見てるんだから、文句を言うな」といった驕り高ぶった意識もなくなり、「商品を売っている」という意識が高まり、クオリティ向上の努力をするようになるのではないか。

良質なコンテンツは有料、という教育を消費者にしてゆくことも重要だ。

 

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