<懲りない国家の犯罪と医療の倫理>「ハンセン氏病」「旧優性保護法」「新出生前診断」は同根の差別思想だ


山口道宏[ジャーナリスト]

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生まれてきていけない生命などない。

「新出生前診断」とは中絶促進システムである。何が「障害者差別解消法」(平成28年4月1日施行)か、何が障害者に「合理的配慮」か。今回の発表に障害者の親たちはどう思うかの想像力がないのか、全く共感的理解がないことが分かる。医師が人殺しをあおる罪は重い。「新出生前診断」とは現代版の優性思想そのもの、である。

「津久井やまゆり園事件」(平成28年7月26日、入所者19人刺殺、入所者ほか26人重軽傷)とどう違うのか。生まれる前に殺すのか、生まれてからのちに殺すのか。「重度の障害者は社会に必要ない」と、事件直後に容疑者の発した言葉が思い出される。

既に報道の通り、日本産科婦人学会が「新出生前診断」の対象拡大を発表した。

これまで「倫理面」から「臨床研究」にとどまっていたものを「一般診療」に広げるという。「高齢出産などのニーズに応えて」といい、ごく簡便な妊婦の血液検査で胎児の「病気」の可能性を知ることができると。2013年導入のそれは、現在までに5万人が同検査を受けて、うち700人が「異常あり」から9割が中絶したという驚愕の事実がある。

もはやこれだけで学会の「倫理性」などあってないかようだが、その学会が本格的に子殺しを ”解禁する” ことを公言した。言い換えれば「ナチス」の民族浄化がそうだったように「医学」は再び人殺しの道具になった。即ち、殺人を許容する排除・差別の思想、堂々の生命の選択である。

そればかりではない。旧優性保護法下での「不妊強制」の事実が明るみになった(旧優性保護法1948-1996)。

これから人権侵害と国家賠償請求を巡る訴訟は必至だろう。本人の同意なしで身体を拘束され麻酔薬をうたれ強制手術を受けた人は全国に1万6475人という。今般の調べでは9歳の女児、10歳の男児にもその手術が強制されたことが判った。

しかし「優性手術適否決定通知書」「優性手術申請書」など「公文書」の存在は全国的にみればごくわずかというから驚きだ。

【参考】<医師が見る「コウノドリ」>現代医学の限界と医療現場をリアルに描く

国に依る、不妊強制の事実はけっして遠い話ではなかった。

それは「不良な子孫の出生防止」の名の下で医師によって施された。知的障害者や精神障害者が狙われた。「障害の遺伝がある」と卵巣を奪ったから「ハンセン氏病」の患者が思い出される。

「ハンセン氏病」では結婚も出産も許されず、終生、隔離された。これらはナチスドイツの「断種法」がモデルだったと伝えられる。

「ハンセン氏病」「旧優性保護法」「新出生前診断」は同根だ。かくも不条理の仕儀はいまも引きづっている。つくづく懲りない行政と医師会と人権意識の弱い国民性なのか。

その国が「差別のない共生社会を」なんて言うなよ、である。

 

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山口道宏

山口道宏(やまぐち・みちひろ) ジャーナリスト、星槎大学教授、NPO法人シニアテック研究所理事長