<オフィスからエンタメまで>落合陽一「働き方5.0」から考える

社会・メディア

久松知博[構成作家]

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メディアアーティスト、コンピューター研究者であり、ホリエモンこと堀江貴文さんからは「現代の魔法使い」と称され、各メディアで活躍中の落合陽一氏。彼は最新の著書「働き方5.0」でこれからの時代についてこう語る。

「これまでの『狩猟社会(1.0)』『農耕社会(2.0)』『工業社会(3.0)』『情報社会(4.0)』に続く、新たな社会の姿です。それは、AIやロボットが幅広い分野で進化し、人間とともに働いていく時代=『働き方5.0』の時代とも言うことができます」

そんな『働き方5.0』時代に注目されているのがRPA(Robotic Process Automation)という技術である。なにやら聞き慣れない言葉であるが、世界の最先端のビジネスの現場では最注目の考え方だ。筆者も職業柄、いろいろなリサーチをすることは多いが、ビジネス分野でニュース検索をすればRPAを目にしない日はないぐらいだ。

RPAとは、定型的なデスクワークをプログラムによって自動化して代行する概念。オフィスではRPAソフトウエアのロボットが、それまでホワイトカラーのやっていた作業を担うようになるという。実際にここ数年で多くの企業がRPAを導入しており、企業からの関心も急速に高まっている。

オフィスワークからヘルスケアはもとより、物流からエンターテインメントに至るまで、これからのあらゆる領域での展開が期待されている。素人考えではあるが、個人的には、保守的になりがちなエンターテインメントの分野でのブレイクスルーに利用できるようにも思う。

そんな話題のRPAではあるが、その一方で、ネット上では「導入してみたものの期待ほど自動化できずに成果が挙げられなかった」「操作や導入までの手順が複雑で上手く運用できなかった」「頻繁なメンテナンスで逆に業務時間が増えてしまう」などネガティブな声も散見される。最先端の考え方であり、技術であるだけに、本来の意味や使い方を十分に理解していないケースも多いように感じる。

では、落合陽一が語る『働き方5.0』、つまり最新システムと人が協力して働くとはどういうことなのか? 人とシステムが共存する働き方に詳しい株式会社FCEプロセス&テクノロジー代表取締役の永田純一郎氏に話を聞いた。

永田純一郎氏(以下、永田氏)「落合氏の言っている『働き方5.0』は、先ず個人のこれからの生き方としても非常に興味深い内容です。一方で企業としては、『なぜその変化が起こるのか』を理解し、自社の経営に踏まえていくことが重要です。今の『大きな働き方の変革』をもたらす根幹にあるのは『ITテクノロジーの飛躍的進化』と『人口構成の変化(人口減少)』です。」

「機械に仕事を奪われるどころか、すでに人間がシステムに組み込まれた状態になっている場面が見られる」と落合氏は語る。例えば、ウーバーイーツなどは注文や決済などはシステムが行い、運ぶのは人間。見方によっては人間がシステムに組み込まれ、ただの道具として使われているようだが、永田氏はこう分析する。

永田氏「もともと社会全体が巨大なシステムであると捉えると、人間やシステムはそれを構成するリソースに過ぎないと捉えることができます。社会という巨大なシステムの工程を分解していくと、人間が担った方が良い機能と、システムが担った方が良い機能を分別することができます。これがITテクノロジーの進化と人的リソースの減少によって『それぞれができること』の前提条件が大きく変わってしまうので、あらためて『誰がその工程を担うのか』を再構成しましょうという変革が起こっている。それが現在の環境変化だと捉えています。RPAとAIと混同されがちですが、その役割は明確に違います。AIは多くの場合、データ分析や情報処理、ひいてはデータ予測など新たなアウトプットを行うことを目指しているのに対して、RPAは足りなくなる人的リソースを補うものであり、過去の経験に基づいて下される明確な判断を伴う業務や、その業務以前の定型作業を行うもので、人間ができるクリエイティブな部分と単純業務の簡素化を図ることが出来ます。具体的にできる一例で言うと、会計システムへのCSVデータ取り込みや経費支払チェック、アンケートデータの入力のレポート作成などですかね。」

しかし、RPA導入の目的が、「RPAの定着による生産性向上」だとすると、本質的に目指すべきところは、「RPA導入を通じて、社員一人ひとりが生産性を意識して働く」組織づくりにあるはず。そんな中でRPA導入は成果をあげているのか? 筆者ならずとも、素人としては気になる点であろう。

永田氏「失敗している企業があるのは確かですね。RPAは『これを導入しさえすれば業務が改善する』というものではないので、それをどう使いこなすかということの方が重要です。すなわち本質的には、RPAを用いて業務改善を行える『人財の育成』こそがRPAによる業務改善・改革の成否を握ると言って良いと思います。」

現在、RPA製品やサービスは様々に提供されている。大企業からベンチャー企業に至るまで、内容も目的や用途、機能に合わせて本当に多い。価格も様々であるようだ。もちろん、格安の「なんちゃってRPA」もあるようだが、ある程度評価の定まっているものは、最小導入で年間数十万円ぐらいから、フル機能版ともなれば数百万円あるいはそれ以上(価格非公表)となっている。

「とりあえずRPAを導入」する企業が多い一方で、決して安い投資でないだけに選択は難しい。永田氏は以下のように述べる。

永田氏「まず、今の時代の大前提として、そのRPA製品が、プログラミングや専門知識が不要で操作が簡単であることは重要です。業務効率化のために導入するのに、それを操作する専門技術者が必要なんていうのは本末転倒です。しかし、簡単を標榜しながら実は全然簡単ではないものばかりなのが実態です。」

なるほど、まさにその通り。それはどの業界でもよくある話だ。

永田氏「例えば、私の会社では『ロボパットDX』(https://fce-pat.co.jp)というRPAを開発していますが、一定の評価と機能をもったRPAとしては、現在日本で提供されているものの中で、圧倒的に操作が簡単です。アプリケーションを選ばず、すべてブラウザアプリで使えます。もちろん、現場での利用に特化したサービスや画面設計も簡単にできます。このような簡単さこそが、これからのRPAには必須です。」

インタビューを終えて筆者が感じたことは、「働き方5.0」とは仕事をAIに奪われるという盲目的な危機意識を持つことではなく、いかに自分の仕事にクリエイティブ性を持たせられるのか? システムは自分の仕事にとってどんな貢献をしてくれるのか? 見極めた者が生き残れる時代になっていくのだろうな、ということだ。

テレビを中心とした日本のエンターテインメント業界は、妙にITやデジタルを恐れている部分がある。しかし、最近、テレビタレントたちが雪崩を打ってYoutuber化している状況を見ると、ITとの融合やITへの置き換えを不可避なのだろう。先日、TOKIO長瀬智也のジャニーズ事務所からの退所が発表されたが、今後は「クリエイターとして活動」とも報じられている。これは間違いなく、ネットとITの世界で生きてゆくこと狙っているはずだ。いや、それしかないとさえ思う。

ところで、最後に少し嬉しい言葉を聞いた。永田氏の会社はもともとコンサルティング会社だったので、RPAの導入前から導入後のサポートまで、人間のスタッフが無償でサポートしているという。確かにAIシステムは便利だし、これからのビジネスには必要不可欠なものなのかもしれないが、やっぱり最後は人間が相手をしてほしい。

AIビジネスブームの今だからこそ、そういう人間らしさが一番重要だと思っている人は多いはずだ。

 

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