男にはランチを2度食べなければならない時もある[茂木健一郎]


茂木健一郎[脳科学者]

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先日、お昼にジャージャー麺を食べて、それから本の取材の場所に行った。そしたら、編集の方と出版プロデューサーの方が待っていて、座るなり「茂木さんはお昼はお済みですか・・・」とおっしゃった。その瞬間、私はすべてを悟った。

開始が、13時と微妙な時間だったのである。しかも、その場所は、お昼においしいカレーを出すことで知られるホテルのラウンジ。編集者と出版プロデューサーが、私とそのカレーを食べるつもりでいらした、ということを一瞬にして悟った。

その間、2秒くらいだったろうか。脳裏を思考が走った。もし、私が食べると言わない限り、著者を差し置いて編集者と出版プロデューサーがごはんを食べようとはなさらないだろう。すると、お二人は、空きっ腹にコーヒーということになる。

【参考】生徒が教師を驚かせてこそ、ほんとうの教育[茂木健一郎]

空きっ腹にコーヒー! この世に、これほどつらいことがあるだろうか。しかも、二人の頭の中には、すでに、このホテルの名物であるおいしいカレーが匂いを立てて置かれているイメージがあるはずなのだ。ところが、私がカレーを食べないと、彼らも食べられない!

「いただきましょう!」と私は2秒後に言っていた。「カレー、食べましょう!」。編集者と出版プロデューサーの顔に、ちょっと安堵したような表情が浮かんだ。そして、私たちはみんなでカレーを食べたのである。私にとっては、二度目の昼食を。

思い返すと、小学校6年生の頃の私は家でカレーをつくると張り切って、なみなみとよそったやつを平気で3杯や4杯は食べて、祖父が目を白黒とさせていて、成長期の私はそれが自慢だった。祖父は、それから2年くらいで亡くなってしまった。

あの頃のことを思えば、ジャージャー麺を食べたあとに、カレーを食べるなど、どれほどのことでもない。このような時に、ダイエットがどうのとか、健康がどうのとか、そういうことは一時的に関係ないと思う。

この二度ランチの後遺症か、夕方、仕事の合間に街を歩いていたとき、私は「そうだ、品目断食をしよう」。何も食べないというのは何だから、たとえば、体重を2キロ減らすまで、牛丼は食べないとか、そういう好物断ちをしたらどうかと思いついたのだった。

(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)

 

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茂木健一郎

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)脳科学者。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員。1962年10月20日、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程終了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を出て現在に至る。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。